本格化するネットワーク・コンバージェンス

新年明けましておめでとうございます。

数年前のインターネット関連バブル崩壊以来、情報通信(IT)業界は苦戦を強いられている。また、ITを使う側の企業も、長い不況のため、IT投資を厳しい目で見ている。そんな中、これからの情報通信分野でキーとなるものは何であろうか。私の目から見ると「ネットワーク・コンバージェンス(Network Convergence)」である。

ネットワーク・コンバージェンスとは、一つのネットワークに音声、データ、ビデオ等をすべて乗せることである。なあんだ、それは随分前から言われているVoIP(Voice over IP)のことでしょう、それなら確かにホットにはなってきているが、今更言うほどのことでもないですね、という声がその分野に詳しい人達から聞こえて来そうである。むしろ日本では、ブロードバンドや無線LAN、そして最近ではユビキタス・コンピューティングですよ、とも言われるかもしれない。

しかしながら、私はあえてネットワーク・コンバージェンスと言いたいし、米国ではここ1年くらいこの言葉が静かに広まってきていることを付け加えたい。ブロードバンドや無線LANは、ネットワーク・コンバージェンスの一部に過ぎない。ユビキタス・コンピューティングについては、広い概念であり、ネットワークを使って、「いつでも、どこでも」いろいろなサービスが受けられるということであるが、米国では、その言葉は随分昔に言われて以来、最近はあまり聞くことはない。概念としてはいいが、その内容があまりに多岐にわたっており、それを実現する技術等がひとつのまとまりとして考えにくいからかもしれない。

さて、ネットワーク・コンバージェンスで何が重要なのか。その第一歩は確かにVoIPであり、それを利用したコスト削減(電話代や企業の場合はネットワーク管理費等の削減)が、比較的目に見えやすく、現在日本でも米国でも進行中である。日本ではヤフーBBがADSLを使った低価格のBBフォンでIP電話市場に参入し、他社もIP電話サービスを積極的に展開しはじめ、一般の人が使う電話がどんどんIP電話に移行しつつある。今年はIP電話での着信が可能な「050」番号の配布も始まるので、IP電話普及に加速度がつくだろう。

企業でも、インターネットあるいは自社で持つネットワークをIPをベースとしたネットワークに切り替えて、ネットワーク・コンバージェンスを実現する動きが始まっている。このようにIP電話を中心にVoIP市場が広がってきており、その市場への参入者も多い。市場への参入者が多くなれば、価格競争もさらに激しくなるので、その浸透スピードは早まるばかりである。

ブロードバンド、なかでも光を使ったFTTH(Fiber to the home)の普及がなかなか進まないという話をよく聞くが、これはブロードバンドを現在の電話とは別に、ビデオ配信等に使うために広めようとしているから、ユーザーは追加コストに二の足をふみ、なかなか普及しないだけである。電話をIP電話にしてFTTHに乗り換えるということを前提にし、ネットワーク・コンバージェンスを実現してユーザーにとっての追加コストがほとんどなくなれば、急激に広がるであろう。

ネットワーク・コンバージェンスは、単に有線のネットワークだけでなく、無線の世界、第三世代の携帯電話(3G)や、高速の無線LANを使った無線ネットワークの世界でも同様のことが言える。3Gネットワークはすでにネットワーク・コンバージェンスが可能なネットワークであるし、無線LANを使ったIP電話もそろそろ話題に上ぼってきている。

ネットワーク・コンバージェンスの第一歩はVoIPによるコスト削減である場合が多いが、勿論これで終わりではない。むしろそれから先が大きいといえる。それは、ネットワーク上を音声、データ、ビデオ等を縦横無人に駆使したマルチモーダル・アプリケーションの到来を意味するからである。

マルチモーダルとは、入力にキーボード、音声、ペン等のあらゆる方法が使え、出力にも、音声、文字、静止画、ビデオ等が使えるものである。今までの音声認識アプリケーションでは、たとえば証券会社の株価照会の場合、電話で株価の知りたい会社名を音声入力し、株価を音声で聞くというものであった。このように音声入力、音声出力という孤立した単純なアプリケーションが多いため、まだ世の中が大きく変わるほどの動きにはなっていない。それが、マルチモーダルの世界では、音声で入力したもので、静止画やビデオの出力を見たり、入力に音声とキーボード、ペン入力などを混ぜて使い、出力も文字や音声を自由に混ぜた形で得られるものとなるので、アプリケーションの幅が急激に拡大する。

比較的単純な例としては、たとえば、自宅のパソコンでインターネット・ショッピングをしていて、操作がわからなくなったような場合、電話でコールセンターのオペレーターと話をしたくても、従来からの電話1本しかなく、それをインターネット接続に使っている場合は、その電話を一旦切らないと話が出来ない。これがネットワーク・コンバージェンスが実現した世界では、VoIPを使って、インターネット上の画面を操作しながら、IP電話でオペレーターとやり取りができ、非常に使いやすくなる。

マルチモーダル・アプリケーションで一番恩恵に預かるのは、携帯電話やPDAなどを使ったモバイル・アプリケーションであろう。これらの機器は小型で持ち運びしやすい代わりに、キーボードが小さく、文字を一つ一つ打つのは、通常のパソコンのキーボードに比べ、はるかに大変である。これに対し、音声で入力できれば、これほど楽なことはない。携帯電話のキーでも早く文字が打てるという親指族にしても、音声で入力したほうが楽だという点について、異論を挟む余地はないだろう。

音声で入力し、画面に出力するというのは、人間にとって、最も自然な形であり、特にモバイル環境では、最有力な入出力方法になるだろう。現在の音声認識アプリケーションでは、音声で入力できるものの、その出力も音声になっているため、入力は簡単であるが、出力がわかりにくかったり、冗長になる場合が多い。例えば、自分のいる位置情報をベースに「一番近い本屋はどこ?」という質問をする場合、音声で質問するのは、携帯電話のキーボードで入力するよりはるかに簡単で早いが、出力を音声で聞いたのでは、わかりにくい。しかし、これを地図という形で出力すれば、極めてわかりやすい。これがマルチモーダルの威力である。

このようにネットワーク・コンバージェンスは、これからどんどん新しいアプリケーションを生んでいくということで、米国では、その第一歩であるVoIPの導入が急速に加速しつつある。単純なコスト削減というだけではなく、これからのネットワーク・コンバージェンスの世界に備えようとの狙いである。昨年後半に行われた米国での大手企業700社の調査でも、VoIPの導入実績が、2000年ではまだ16%だったのが、2001年には44%、2002年では74%に達すると予想されている。また、企業内の構内電話交換機(PBX)も、従来型のものからIP−PBXへの移行が急速に進んでおり、2003年にはIP−PBXの売上が従来型のPBXの売上を大きく上回ると予想されている。さらに別な調査で、今一番求められているIT関連人材は、という問いに対する回答で最も多かったのが、VoIP関連技術者である。

ネットワーク・コンバージェンスを大きなビジネス機会ととらえ、活発な動きをしている情報通信企業も多い。VoIP関連の製品やサービスの提供は以前から進んでいるが、ここに来て、マルチモーダルを前面に出してきている企業もある。また、マルチモーダルを実現するための標準化を図ろうということで、まず、ウェブに音声を組み合わせるための標準を検討するSALT(Speech Application Language Tags)Forumが2001年に結成され、その標準仕様の第一版が昨年8月に出された。このフォーラムの結成メンバー6社には、Microsoft、Intel、Ciscoなど、IT有力企業が名前を連ねている。また、XHTML+Voice(略してX+VまたはXVとも言う)という別な標準をIBMやMotorolaは進めようとしている。

このように米国ではネットワーク・コンバージェンスに向けての動きが盛んであるが、日本の対応は、まだこれからというところだ。上にあげたコンソーシアムへの参加企業も少ない。

ネットワーク・コンバージェンスの大きな流れに向けて、ITユーザー企業はさらなるネットワークのIP化を進める必要がある。また、この分野でビジネスをしようと考えている情報通信企業は、対応を急がないと、また米国からの技術輸入に終わってしまう。ネットワーク・コンバージェンスは、まだ技術や標準化等の面でさらに前進する必要があり、一夜にして起こるようなものではなく、時間をかけて次第次第に広がっていくものであるが、既にその動きは本格化している。日本企業のネットワーク・コンバージェンスへの早期の対応を期待したい。

(01/01/2003)


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