真のグローバル化のために、米国市場で本気の戦いを

新年明けましておめでとうございます。

グローバル化が叫ばれてから久しく、企業のグローバル化の必要性を信じない人はいないだろう。サービス・ビジネスはローカルな面もいろいろあるが、ハードウェアやソフトウェアの「物売り」の場合、グローバル化し、その分野、その製品で世界一流にならなければ、これからは生き残れない。

実際、日本企業で大きな成功を収めている「物売り」企業は、グローバル化し、世界でしかるべき市場シェアを握っている。自動車を筆頭に、コンシューマー・エレクトロニクス、また、日経ビジネスなどに時おり紹介される、あまり名前は知られておらず、中小規模の企業だが、業績の極めていい企業も、グローバル市場を相手に戦って、高い市場シェアを握っている。

グローバル市場という中には、当然、世界最大の市場である米国市場が含まれている。米国市場は市場の大きさが世界最大なだけでなく、ユーザーの、特に価格に対する目が厳しく、また、世界の有力企業が皆、この市場での成功を目指して攻勢をかけてくるので、米国市場での競争は厳しいものがある。しかし、この厳しい米国市場で成功しなければ、本当の意味でのグローバル企業に成り得ないことも、間違いない。日本企業以外を含め、グローバルに強い企業で、米国で実績を上げていない企業は、ほとんどないといえる。

私はここ18年余り米国カリフォルニア・シリコンバレーに住んでいるが、米国市場での日本の自動車メーカーについては、目を見張るものがあり、数字的にもトヨタが米国ビッグ3のまずクライスラーを抜き、次にフォード、最後はいよいよGMを抜こうとしているところまできている。ホンダや日産も頑張っている。ところが、以前は米国でも強かったコンシューマー・エレクトロニクスの分野では、ここ数年、陰りが見える。

今週は、Las Vegasで、年に一度のConsumer Electronics Show(CES)が行われており、もちろん、日本企業の多くも大きなブースを構え、頑張っているが、Samsung、LGといった韓国勢に勢いを感じる。実際、かれらは展示の場所も目立ついいところに陣取っており、人もたくさん集まっている。日本メーカーでもいい場所に陣取り、人も多く集まっているところもあるが、展示規模が小さかったり、場所が悪かったり、明確なテーマに乏しくて、その会社のメッセージ的なものがはっきりせず、人の集まりも今一つのところもあったように感じる。

CESのような展示会だけでなく、家の近くの家電量販店に行っても、いま売れ筋の薄型テレビなどは、Samsung、LG等が目立つ。また、携帯電話についても、携帯電話サービス会社から送られてくる広告等を見ても、そのほとんどはSamsung、LG、Nokia、Motorolaなどで、日本のメーカーのものは極めて少ない。

日本のコンシューマー・エレクトロニクス・メーカーは、これまで米国市場を圧倒し、日本企業の進出で、米国のコンシューマー・エレクトロニクス業界は消えてなくなったに等しい。ところが、ここ数年は状況が大きく変わって、今度は他国企業からの脅威にさらされており、その失地回復が大きな命題となっている。景気の回復してきた日本国内市場と、中国市場への進出に力を入れ過ぎたため、日本メーカーが米国市場で手を抜いてしまっている感が強い。

日本国内市場、そして今、急拡大している中国市場が重要なのはもちろん理解できるが、本当の意味でのグローバル企業として生き抜いていくためには、その最重要市場である米国市場は避けて通れない。この数年、日本メーカーは、日本市場と中国市場で忙しいことを理由に、競争の厳しい米国市場から逃げていた感が否めない。米国市場からこれ以上逃げることは、グローバル企業として今後生き残っていけないことになることを、肝に銘じておく必要がある。

一方、情報通信の世界では、日本メーカーがまだ一度も米国市場を席巻したという状況に至っていない。特に通信関連企業などは、NTTが電電公社時代に、電電公社に頼まれた、電電公社特殊仕様のものをきちっと作れば売上が立ち、利益も出る、という仕組みの中で育ったため、技術的には高度なものを持っているはずだが、真のグローバル化がまだまだ出来ていない。しかし、NTTも新しいNGN(New Generation Network)の構築には、IP系の市販標準製品を使うため、日本メーカーは逆に米国メーカー等に押されている状況だ。グローバル化の波は、ついに日本国内市場にまで及んできている。

米国市場に自社製品を持ち込んで売ろうとしている企業もあるが、苦戦している場合が多い。中にはチャレンジして失敗し、撤退して、その後は米国市場参入を避けようとする企業も少なからずあるように見受ける。このような状況では、とても日本の情報通信企業はグローバル化できないし、その結末は、企業の死、あるいは、物を作らず、外国製品を輸入して販売し、日本国内でサービスを提供するような企業に変わってしまうことだ。

もちろん、企業として、製品を作ることをやめ、サービス会社に生まれ変わるという戦略も選択肢の一つであり、そのようにするのであれば、それでもよいが、もし「物売り」を継続するのであれば、長期的にみて生き残るためには、グローバル化は必須であり、当然、米国市場での戦いも、避けて通れないものである。

会社としてグローバル化を宣言しながら、米国市場はとりあえず避け、アジア等に目を向ける企業もあるが、短期的にそのようなことをすることは可能かもしれないが、そのままではとてもグローバル企業にはなれず、最終的には消えてなくなる運命である。

このような言い方をすると、「うちはグローバル企業になると言っても、グローバル・ニッチ企業でいいんだ」という返事をもらうこともある。グローバル・ニッチ企業になることはもちろん問題ない。実際、先に書いた、日経ビジネスに紹介されているような中小規模企業は、みなグローバル・ニッチ企業といえる。それは、扱う製品はニッチ製品だが、グローバルに市場を広げているからグローバル・ニッチ企業であり、これは十分成功する。

しかし、グローバル・ニッチで、地域としてニッチを狙うというのは、短期的にはある程度成功しても、グローバルな世の中では、中長期的には通用しない。地域ごとに言語、文化、社会制度などは確かに異なり、それぞれの国に提供する製品もそれに合わせる必要があることは確かだが、現在のグローバルな世の中では、グローバルに共通な部分のほうが圧倒的に多く、地域での違いは、製品機能の微調整程度で済むものがほとんどだ。したがって、地域でニッチをねらうというグローバル・ニッチは存在しないと言っていい。

このようなことを考える中、新年早々の日経新聞に、「コンピューター大手が海外で攻勢に転換」という見出しが目に入り、NEC、日立、富士通が再び北米市場に力を入れ始めたのは朗報だ。日本のすべての「物売り」企業が、真のグローバル化のため、北米市場に勇気をもって参入し、本気で戦ってほしいと切に思う。私の会社(Cardinal Consulting International)も、日本の情報通信電子企業の北米ビジネス拡大に、微力ながら今年も支援を続けていきたいと考えている。

(1/01/2007)


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