情報通信革命への投資は十分か


1月のレポートでもお話したように、日本の経済の状況はよい業界、企業と悪い業界、企業があり、まだら模様である。しかしメディアの伝えるニュースは暗い部分に集中し過ぎ、一般企業でも実質以上に経済を悲観し、投資等、積極的な経済活動が縮んでしまわないかと懸念される。

情報通信の分野で仕事をする者として心配なのは、これにより、日本の情報化が更に遅れてしまわないか、という点である。ここで“更に”と書いたのは、すでに日本の情報化が米国などに比べ、遅れているという意味である。日本は製造面では世界をリードする高い生産性を持っているが、ホワイトカラーの生産性は欧米先進国に比べ、むしろ低いというのは、既にかなり以前から言われて来たことである。それが、近年のインターネットに代表される情報通信革命で、さらに差が開いてきている。

何かあると、“日本は米国よりXX年遅れている”などとよくいわれるが、この場合は、大体日本は米国に遅れていることを認識し、それに追いつこうとしている状況である。したがって、その差は将来縮まることはあっても開くことは少ない。戦後の日本は、このような形でどんどん欧米に追い付き、ものによっては、追い越してしまったわけである。しかし、今回のインターネットを中心とした情報通信革命については、状況が大きく異なる。インターネットが研究者等、特定の人達から一般市民、一般企業にひろまったのは、ここ3ー4年であるから、3ー4年前には、日米に大きな差があったわけではない。しかし、今、どんどん日本と米国の差が開いてきている。

この原因の一つには、日本におけるインターネットに対する十分な認識(世の中を変え、企業のビジネスのやり方を大きく変えるほどの大きなものであるという認識)が確立されないうちに、インターネットに対する熱意が少しさめかかってきているのではないかという懸念がある。(これが私の単なる杞憂であことを信じたいが)

インターネットが世の中に広まり出してからというもの、単に急激にその利用者が増加したというだけでなく、色々と新しい技術が生まれてきた。はじめはWWWのサーバーとブラウザーくらいであったインターネット関連製品も、オーサリング・ツール、サーチ・エンジン、利用モニター、グループウェアとの融合、メーンフレームなど既存システムとのリンク、そして、新しい技術や概念として、Java、プッシュ・システム、インターネット電話、インターネット・ビデオなど、あらゆる新しいものが市場をにぎわしてきた。

しかし、インターネットの世界をこの一年振り返ってみると、昨年初めにプッシュ・システムという新しい概念(概念そのものはさらに1年前位からあった)が広まりを見せたものの、その後、特に新しいものは出てこなかった1年であった。これを見て、一部の日本の人達からインターネットもこの程度かという感覚が生まれてきているのかもしれない。

しかし、米国ではどうか。新しい技術があまり出てこなくなったというのは、事実である。しかし、メーカーはここ数年で出てきた新しい技術をどんどん改良し、よりよいものにしてきている。ユーザーもインターネット利用をさらに積極的に進め、イントラネットの構築はほぼ終わり、エクストラネットの構築に力をいれているという段階である。

新聞や雑誌を見ても、こんな会社がこんな形でインターネットを使っているなどという記事はずいぶん減ったが、これは、米国企業がインターネットに熱心でなくなったというわけではなく、むしろその逆で、インターネット利用がもう“当り前”でニュースにならなくなったということである。インターネットも最初はどこどこの会社がホームページを作ったというのがニュースになり、そのうち、どこどこの会社がインターネット経由で何かを売り出した、イントラネットを構築した、エクストラネットをつくった、等々が話題となり、ニュースにもなったが、もはやその段階はとっくに過ぎたのである。

エレクトロニック・コマースにしても、ビジネス対ビジネスのインターネットを利用したやりとりがどんどん伸びているのに加え、一般消費者向けのものも、インターネット利用のメリットの出るものは、じわじわと広がりを見せている。インターネット経由によるコンピューター・ハードウェア、ソフトウェア、書籍、飛行機や劇場等の切符の販売、そして、インターネット経由による銀行取引や証券取引などが大きく伸びてきている。

このような米国の状況に比べ、日本の各企業が同様の対応をしているかどうか、どうも不安である。もちろんいくつかの先進的なユーザーが日本にもいることは知っている。しかし、全体としてどうも意識が低すぎるように感じられてならない。

このような状況に、経済の不安が加わり、インターネット等の利用への、つまり、近年の情報通信革命に対する投資が十分かというのが、私の大きな懸念である。例えば、金融などは、この情報通信革命で大きく変化する(すべき)業界であると思うが、不良債権をかかえ、大蔵省との癒着、不正などの対応に追われてしまい、本来必要な情報通信投資を十分に行うだろうかと懸念している。

しかし、このような状況において、単に経費を押さえるために短期的な視野で情報化投資を控えてしまうか、それとも長期的視野をもって積極投資するかによって、企業の優劣に大きく影響することは間違いない。金融はこれからビッグバンを控え、ビッグバンが本来の形で実施されれば、大競争時代を迎えるのである。金融業界のみではない。今や企業の勝ち負けは、どれだけその企業が情報通信革命に対応した十分な投資を行い、それを武器とするかどうかに大きくかかっている。これからの新しい時代を勝ち抜くために、企業トップの、政府官僚に頼るような姿勢ではない、経営者本来の経営手腕が問われている。

(02/01/98)


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