e-ビジネスは儲かるか?

e-ビジネスは儲かるか? この質問はインターネットが大きく広がりはじめ、インターネット上でいろいろな会社が商品を売り始めた4−5年前からずっと聞かれる質問である。昨年来のドットコム企業の倒産、Amazon.comなどの生き残っている企業も相変わらず大きな赤字を出し続けているのを見ると、e-ビジネスは本当に儲かるのか、と疑問を持つのも当然であろう。

しかし、e-ビジネスとは、単にインターネット上で商品を売るだけではない。インターネットを利用した資材の購買、仲介、社内向けのイントラネット、また、商品を販売しないまでも、販売支援、顧客とのリレーションシップ強化、さらにサプライヤーとのリレーションシップ強化など、そのメリットは数え上げるといくらでも出てくる。

一番わかりやすいのは、コスト削減による効果であろう。コンピューター・メーカーのHewlett Packardはイントラネットで一般管理費を売上高の30%から17%に削減できたと、数年前に発表していたし、General Electric (GE) はリバース・オークションを利用した購買で、昨年12億ドル(約1350億円)コスト削減したと述べている。また、証券会社では、取引をインターネット経由にしたために、1件あたりの処理コストを大幅に削減したと述べている。

このように、目に見えて数字に表れる生産性向上効果だけでも、たくさん存在する。インターネットを使ったe-ビジネスは、これだけ効率がいいといえる。インターネットを使って商品を販売するe-コマースにしても、物理的な店舗が必要なく、また、商品を販売するための1件あたりのコストも、インターネット経由で入ってくるので、店で店員が応対するよりも大幅に少ない。こう考えてくると、どう見てもe-ビジネスは儲かるはずである。しかし、多くのドットコム企業は苦境に立たされ、一部はすでに倒産に追い込まれている。何か釈然としないものを感じても不思議はない。

では、一体何が起こっているのか。特に商品をインターネット上で販売するドットコム企業を見ると、いろいろと見えてくる。まず、魅力的な市場のため、たくさんの企業が参入し、その結果、過当競争を生んだことが上げられる。例えば、ペット用品を販売するウェブサイトだけでも、米国では100以上ある(もしかすると、最近のドットコム倒産で100以上あった、というほうが正しいかもしれないが)と言われている。物理的な店なら全国に100以上、あるいは東京だけに100以上あっても、ビジネスが成り立つかもしれない。それは、物理的に店と店の距離が離れているからである。

しかし、インターネット上では、どの店もお隣同士である。よほど特徴がない限り、顧客それぞれの嗜好によって、100のサイトに顧客がうまくばらつくことはない。そうなると、お客を集めるために必要なことは、広告による名前(ブランド)の浸透、低価格などということになる。せっかく店舗出店のコストが削減でき、1件あたりの処理コストが低くても、別なところでコストがかかっている(または売上が減少している)のである。また、魅力的なウェッブサイトを構築するにも多額のコストがかかる。ドットコム企業として、新たにビジネスを始めた場合は、それに加え、倉庫など、ビジネスを実施していく上でのインフラ作りにも、場合によっては多額のお金がかかる。

インターネットによるe-コマースが顧客にとって便利だといっても、すべての顧客がインターネット経由で商品を買うことはない。インターネットで買ったほうが便利だとか、安いと思う人達が買うわけである。今のところ、消費者による購買に占めるインターネット利用の割合は、商品によって大きく異なるが、まだ数%程度なものがほとんどである。例外は証券取引の数十%であろう。したがって、市場は多数の参入企業が皆、十分な利益を出せるほど、まだ大きくないのである。

では、逆にe-ビジネス、特にインターネット経由による商品の販売は、儲からないから、やらないほうがいいのであろうか。確かに、これからベンチャー企業としてはじめるのであれば、全く新しい分野でない限り、成功の確率は低く、やめたほうがいいかもしれない。しかし、既存企業としてe-ビジネスをやるべきかどうか、という質問であれば、答えは全く逆になる。

証券取引の例が一番わかりやすい。いまや、どこの証券会社もインターネットによる取引サービスを低価格で提供している。いままで人を介して行っていた取引による手数料に比べ、インターネット取引によるものは、通常その数分の一である。したがって、証券会社としては、インターネット取引をやらず、人を介してビジネスをやっていたほうが儲かる。ただし、これはインターネット取引を行わなくても、今までの顧客を維持できる場合である。だが、現実はそうではない。既存証券会社もそれがわかっているから、しぶしぶながらインターネット取引に参入しているのである。さもないと、顧客をどんどん奪われ、ビジネスの減少、ひいては市場からの退場をも強いられかねないからである。

では、これらインターネット取引をやっている証券会社は、そのことによって、皆儲けているのだろうか? 答えは否である。ただし、誰も儲けていないというわけでもない。インターネットの世の中では、「早い者勝ち」という面が強い。例えば、Charles Schwabなどは、他社に先行してインターネット取引をはじめたため、サービス開始当初は取引手数料の低下で業績も一時下がったが、ここ数年で顧客ベースを倍増し、売上、利益とも大幅に上がっている。2000年第1四半期のインターネット取引顧客が370万人いるのに対し、遅れて参入したMerrill Lynchは、わずか16,000人である。

インターネットによるe-ビジネスは、確実に企業の生産性を高めている。しかし、その結果生じた利益は、過当競争に合い、あるいは、商品の差別化が難しくなったため、価格低下という結果を生み、e-ビジネスによるメリットは、そのまま消費者へと還元されていることになる。いつも企業にばかり儲けられている消費者にとっては、何よりもうれしい話である。

しかし、企業にとっては、必ずしもばら色の世界ではない。e-ビジネスは、先行すれば儲けがある。遅れると儲けはない。参入しないと市場から退場させられる。e-ビジネスは儲かるからやる、儲からないからやらない、というものではない。e-ビジネスを実施しないと、企業に明日はないのである。企業にとっては、何とも厳しい現実である。

(01-3-1)


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