グリーン・エネルギー問題もインターネット流で解決

オバマ大統領が1月に就任し、これまでのブッシュ政権からのCHANGEは、次々に行われようとしている。その中の一つ、グリーン・エネルギー(クリーン・エネルギーという場合もある)についての対応も、ブッシュ政権時代から、大きく変わろうとしている。これまで既存企業に味方し、厳しい環境規制に消極的だったり、グリーン・エネルギー研究開発への支援の少なかったブッシュ政権に代わり、オバマ政権では、カリフォルニア州が以前から実施しようとしていた環境規制の容認や、グリーン・エネルギーの研究開発支援にも資金を多く投入しようとしている。エネルギー省(Department of Energy)長官には、Lawrence Berkeley国立研究所長のSteven Chu博士(ノーベル賞受賞者)という、グリーン・エネルギーに積極的な人を起用している。

そんな中で、グリーン・エネルギー問題もインターネット流で解決できる、と言っている人がいる。その人の名は、Bob Metcalfe。インターネットそのものではないが、それにも深くかかわりのある、Local Area Network(LAN:構内ネットワーク)の標準となっているEthernetプロトコルの生みの親と言われる人だ。もともとXerox社のPARC(Palo Alto Research Center)で開発し、それを製品化するために3Com社(Computer、Communication、Compatibilityという言葉から命名した)を創設し、その後情報通信関連の出版事業にも携わり、現在はベンチャー・キャピタルのパートナーとなっている。

彼はネットワークに関する興味深いことを、これまでいろいろと言っており、その中で有名なのは、Metcalfe's Law と言われるものだ。どういうものかというと、聞いたことのある人も多いかもしれないが、ネットワークの価値というものは、それを使う人の数の2乗に比例する、というものだ。ネットワークがあっても、たとえば、そのユーザーが2人だけだと、一人と通信する価値しかない。1000人だとすると、999人と通信する価値が生じ、そういう人間が1000人いるわけだから、ネットワークの価値は1000 x 999つまり、およそ1000の2乗ということになる。

このMetcalfe's Lawは、インターネットでも大いに有効な考え方だ。インターネットが広がり始めた頃は、ユーザー数も少なく、使っていてもその価値はそれほど高くなかったが、その人数が数百万人、数千万人、数億人と増えるに従い、その価値がユーザー数の2乗に比例するほど高くなってきているのは、実感できるところだ。最近流行りのFacebookやMyspace、日本でのMixiなどのSocial Networking Service(SNS)にしても同じことが言える。古くは、電話についても同じことが言えた。ただ、本人も言っているように、これは、何か科学的に証明できるようなものではない。そもそもネットワークによって得られる価値というものを数値化するのは、極めて難しいからだ。しかし、感覚的とはいえ、ネットワークの価値とユーザー数の関係をうまく言いえていることは間違いない。

さて、このような、ネットワーク、インターネット的な考え方を、グリーン・エネルギー問題にも適応できると彼は主張している。ただし、グリーン・エネルギーに関するMetcalfe's Lawは何かという質問には、まだ答えが見つかっていない、という状況だ。まず、最初に主張しているのは、技術的な話ではなく、グリーン・エネルギー問題に対する対処の仕方だ。

これまで、エネルギー問題は、既存の電力・ガス、石油関連企業等が牛耳っており、彼らは今のビジネスモデルが儲かっているから、それを続けようとし、政府に対しても、そのような働きかけをする。カーター大統領時代に石油危機が起こり、米国でも石油依存から脱却する必要があるという議論が起こり、1977年に政府内にエネルギー省(Department of Energy)が作られ、現在その予算は230億ドルにもなるが、それから30年余り経つが、一体どこまで石油依存から脱却出来たのか、というのが彼の苦言だ。

そこで、第一の主張は、ともかく政府や独占的な既存企業等、競争の少ない中にいる人たちに頼るのではなく、インターネットがそうであったように、ベンチャー企業、大学、ベンチャーキャピタル等が力を合わせ、競争の中で新しいものを作っていくべきだというものだ。ただし、インターネットのときも、そのもととなったARPANETは政府の資金で研究開発されたものであり、そのような政府による資金援助は必要だとも言っている。あくまでもその資金が政府や既存企業に行かず、大学等の研究に行き、その中からベンチャーが育ってくる必要性を述べている。

新しいグリーン・エネルギーの発展には、上のようなベンチャーを中心とした研究開発が必要なわけだが、出来たエネルギーをどう配電するか、ということになると、これはまさしくネットワークの問題になる。現在のコンピューターのネットワーク・システムでは、分散型(distributed network)が主流で、たくさんの場所に情報の発信源があり、それらがネットワーク全体に伝わっていく。インターネットは、まさしくその最たるものだ。ところが、今の既存エネルギー会社に話をもっていくと、同じように「distribute」という言葉は使うものの、その実態は全く異なり、巨大な発電所を作ってそこからエネルギーをdistribute(配電)する、という話になってしまい、巨大投資がいるし、それは、既存大手エネルギー会社しかできない、という話になってしまう。

そうではなく、例えば、小規模ながらたくさんのソーラーシステム等を使ったグリーン・エネルギー発電を数多くのところで実施し、それを配電のネットワークをうまく使ってシェアすることができるのではないか、ということだ。これはまさしく、インターネットで起こっている、個人個人のパソコンの能力をお互いにシェアしながら通信するPeer-to-peerネットワーク・モデルに類似したものとなる。Internet、Ethernetのように言うと、Enernet(Energy network)ということになる。

具体的なグリーン・エネルギー発電の話というわけではないが、確かにベンチャー企業を使った、いわゆるシリコンバレー・モデルを使って新しい技術や製品を開発し、巨大な発電所ではない、少ない投資で実現可能なたくさんのグリーン・エネルギー発電の基地を作り、それらをインターネットのような網の目のネットワークで結びつけて効率よく使う、ということも概念的には十分理解できるし、追求してみる価値があるように思う。1969年にはじまったインターネットがここまで来るのに40年。グリーン・エネルギーについても、その解決のためにこれから長い時間がかかるだろうが、インターネット流が、この人類の将来にとって大事な問題解決に対し、いいヒントを与えてくれているのかもしれない。

(3/01/2009)


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