イントラネット


昨年の暮れから今年にかけて、インターネットはまた新たな大きな流れを情報システムの世界に作りはじめた。 インターネットの技術を社内の情報システム、ネットワークに利用する、イントラネットがそれである。

昨年4月に出版した拙著“インターネット・ワールド”(丸善ライブラリー)にもインターネットの社内利用については既に書いているし、また、今年1月にこの西海岸メディア通信で書いた、インターネット戦略の中でもイントラネットについては取り上げた。 しかし、最近のイントラネットの注目のされようは大変なものである。 イントラネットという言葉自体、米国でも使われ出したのは、つい昨年の秋からだったにもかかわらずである。

まず、もう一度イントラネットとは何か、から復習してみたい。 イントラネットとは、インターネットを外部とのやりとりではなく、社内で利用するものである。 大きく分けると次の2つになる。

  1. 世界中に広がっている誰でも利用出来るパブリックなインターネットを社内のネットワーク(又はその一部)として利用する
  2. インターネットの技術(TCP/IP, WWW サーバー、ブラウザー等)を利用して、社内専用の(時には関連会社等を含めた)プライベートなネットワークを構築して利用する
イントラネットを狭い意味で(2)の意味だけで使う場合もある。

まず(1)の使い方について見てみると、これは一口で言って通信コストの削減が大きなメリットとして上げられる。 インターネットの料金体系は距離に無関係に設定されているため、長距離通信が格安となる。 インターネット・アクセス業者によっては、使用量にも無関係に料金が設定されているので、さらにコストが削減出来る。 

また、企業のネットワークに新しい事務所等を追加する時にも、インターネットに接続するだけで、社内ネットワークに即座につながってしまうというメリットもある。 ただ、このパブリックなインターネットは誰でも接続できるため、セキュリティーに十分注意する必要がある。

次に(2)の使い方について見てみよう。 一番大きなメリットはやはり、マルチ・プラットフォーム環境(異なるメーカーのコンピューター及びソフトウェアを一つのシステム/ネットワークで使用する)において、困難なく利用出来るシステムであるという点である。 

インターネット技術を利用しない従来のシステムでは、マルチ・プラットフォーム環境でシステムを構築するのは、大きな困難を要した。 そのため、この問題を解決するために、ミドルウェアという新しいタイプのソフトウェア分野が出来たほどである。

これに対し、WWW ブラウザーはそれがどのプラットフォーム上で動いていても、また、WWW サーバーがどのプラットフォーム上で動いていても、何の特別なミドルウェアも使わずに、簡単にシステムが構築出来るのである。 

簡単に構築出来るシステムである事に加え、WWW のブラウザーを使った事のある人ならよくわかると思うが、インターネットをベースとしたシステムは非常に使い易い。 したがって、このWWWのブラウザーのフォーマットにユーザー・インターフェースを統一してしまうと、ユーザーにとって大変使い易いシステムとなる。 これは、ユーザーのトレーニングの手間等が省け、非常に効率がよい。

このようなイントラネットのメリットが次第にはっきりしてくるにしたがい、米国では多くの企業が自社の情報システムにイントラネットをいかに使うかを真剣に考えはじめ、実際に次々と導入していっているのである。 今や、イントラネットはごく一部の特殊なアプリケーションだけでなく、情報システムのあらゆる分野に使用されはじめている。

さらに、もう一つのメリットは、複数の人間が情報を共通に利用するためのツールとして、インターネットの WWW の技術が利用出来る点である。 情報を共通に利用するためのツールとしては、グループウェアというソフトウェアの分野があり、昨年 IBM に買収された Lotus 社の Notes という製品が有名である。 インターネットの WWW は、いまのところ Lotus Notes より機能が劣っており、単純にその代替は出来ない。 しかし、それほどの高機能を必要としないユーザーにとっては、極めて安価な簡易グループウェアとして、インターネットの WWW の技術は大変便利なものである。 実は、これは既に昨年4月に出版した“インターネット・ワールド”に書いた話であり、それが現実になってきているという訳である。

しかし、話はここではとどまらない。 今やイントラネットが社内情報システムの中心的なものとなり、WWW ブラウザーが標準のインターフェースになろうとしているため、インターネット関連ソフトウェア各社は、次々にインターネット用ツールの機能拡張を行い、イントラネットに対応しようとしている。 

たとえば、WWW ブラウザーで先行する NetScape Communications 社は、昨年、グループウェア・ソフトウェア製品を持つ Collabra 社を買収し、グループウェア機能を自社のWWW ソフトウェアに追加し、高度なグループウェア機能を別のグループウェア・ソフトウェアを用いずに使えるようにしようとしている。 IBM もこの状況を察知し、Lotus Notes とWWWの技術を、うまく統合しようと試みている。

インターネットの技術は、マルチ・プラットフォーム環境で使用するにせよ、簡単なグループウェアとして使うにせよ、極めてユーザーにとって使い易く、また開発も容易である。 そのため、システム開発の期間短縮、コストの削減、ユーザーのトレーニングの時間の短縮、トレーニング・コストの削減等、企業にとっていい事ずくめである。 さらに、テキスト情報だけでなく、イメージ等のマルチメディアも簡単に扱えるのである。 今後の情報システム化に当たっては、イントラネットの使用をまず考えると言う事が常識になってくるであろう。 

インターネットの技術は(したがってイントラネットの技術も)まだ発展途上のものであり、今すぐに複雑な情報システム・アプリケーションをすべてイントラネットで作りあげると言うのは無理がある。 しかし、このようなイントラネットの市場の広がりを見て、ソフトウフェア開発ツール各社はイントラネット用に各種機能を加えようとしているし、既存のデータベースとWWWをうまく統合するようなツールも次々と出始めている。 したがって、イントラネットが企業の情報システム化の中心になってくるのも時間の問題であろう。

イントラネットは、情報システム分野でビジネスを行っている企業に大きな影響を及ぼすとともに、情報システムのユーザーである、あらゆる企業にとっても、早急に対応が必要なものである。

(3/01/96)


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