さらに進む、インターネットでテレビ番組を見る時代

インターネットでテレビ番組を見る時代。テレビ番組を「いつでも」「どこでも」見たいというユーザーのわがままが、米国では、どんどん実現している。

インターネットでテレビ番組を見る話について最初に書いたのは、2006年9月の「ブロードバンド・インターネット―日米事情」だった。その後、2007年3月には、「ネットワークインフラの進む日本、ビジネスモデルが先行する米国」、2008年8月には「インターネットで楽しむ北京オリンピック」も、インターネットで見るテレビ番組、あるいは、テレビの放送時間枠に入らないもののインターネットによる配信について書いている。

日本でもようやくNHKが「NHKオンデマンド」、フジテレビも「いつでもTVどこでもTV」を国内ではじめ、ようやくその兆しが見えてきたが、これは米国の3年くらい前の状況にようやく近づいてきた、というレベルだ。米国でも3年前頃は、テレビ局が、インターネットで番組を配信すべきか大いに議論していた。テレビ放送と、その広告収入へのマイナス面を心配してのことだ。しかし、いづれにしてもテレビ放送の広告収入の減少は避けられず、ユーザーの「いつでも」「どこでも」テレビ番組を見たいという強い要望を満たさないと、テレビ離れが進む一方となる。実際、すでに数年前から、米国では、テレビを見る時間よりインターネットを使う時間のほうが多くなっている。そこで、むしろインターネットで番組を配信することによるプラス面を生かそうということで、主要テレビ局が次々にインターネットによる番組配信をはじめた。

はじめた当初は有料による番組配信なども試行されたが、今は無料の広告モデルによるストリーミング配信が主流となっている。まずはテレビ局自身のウェブサイトで配信を始めたが、最近はテレビ番組を中心としたプロが制作したビデオを幅広く配信するHulu.comtv.comのようなビデオ・アグレゲーターサイト(ビデオ・ポータルサイトとも言う)にも番組配信のチャネルを広げている。通常の夜の番組はほぼすべて翌日にはインターネット上で配信されている。さらに、北京オリンピックのときがそうであったように、テレビ放送枠に入らないようなものも、インターネットで配信している。私が北京オリンピックで、テレビでは放送されない柔道での日本の活躍を生放送で見れたのは、インターネットのお陰だ。

米国のテレビ局は、もはや単なるテレビ放送をする会社ではなく、コンテンツの会社という位置づけをしており、このブロードバンド・インターネットの世界で、自分達のもっているコンテンツで、いかに売上、利益を高めるかに腐心している。そのため、番組の配信も、自社サイトだけでなく、幅広く行っている。

では、本当にこのようなことをやってテレビ放送とその広告収入に悪影響は出ていないのだろうか。これに対するテレビ局の結論は、一様に問題なし、というものだ。インターネットによるテレビ番組配信によって、テレビを見る量が減らないどころか、むしろ増えた、という話が多いくらいだからだ。

それにはいくつかの理由がある。ひとつは、シリーズもののテレビ番組など、一度見落としてしまうと、話がわからなくなって、面白くないので、見なくなってしまう場合が多いが、これをインターネットで遅れて見て、キャッチアップし、また続けてテレビで見よう、という気になることが多いことがあげられる。実際、インターネットでテレビ番組を見る人のかなりの数は、このような、見落としたものを見るためだ。また、会社のオフィスの昼休みに、あるいは出張先で、という「いつでも」だけでなく「どこでも」見ることができるのも、大いに視聴者をつなぎとめることに役立っている。

さらに、インターネットならではの楽しみ方が、広がってきている。たとえば、離れたところで見ている人たちでも、あたかも一緒に見ているかのように、番組を見ながらコメントをやりとりできる、viewing partyというものがある。また、一緒に見なくても、時間をずらしてコメントのやりとりをすることは、もちろん可能だ。このようなインタラクティブ性を生かした楽しみ方が、どんどん広がってきている。

広告の出し方もインターネット配信だといろいろなことができる。テレビだと、いわゆる30秒広告というものを何度も見さされる場合も多いが、インターネットの場合、同じように広告を見るにしても、その形態はさまざまで、ユーザーにとっても歓迎すべきものが多い。たとえば、どの広告を見るか、ユーザーが選択できる、というものもその一つだ。自分の見たい種類の広告、例えば、Aという製品についての広告がいいか、Bという製品についての広告がいいか、などをユーザーが選べる仕組みだ。

さらに、広告の出し方も、30秒広告ではなく、番組はほとんど途中で広告を入れず、画面の下や周りに広告を継続的に出したり、番組の途中で出す場合も、普通より短めにするなどの配慮がなされている。

広告主の側からみても、インターネットによる広告は、どんなユーザーかがある程度把握でき、そのユーザー向けのターゲット広告を行ったり、また、広告に対する反応を見ることができるなど、メリットが多い。それに比べ、テレビは視聴率というおおまかな情報しかわからず、しかもビデオ録画して広告をスキップされているかもしれないし、広告の評価はかなり曖昧だ。逆に、このように大まかにしかわからないものだから、多額の広告費が取れているという話もあるが、これも、インターネットのように、広告の評価が明確になってくると、広告効果の見え難いテレビ広告に使うお金がさらに減り、いわゆるマス広告からターゲット広告へと次第に移っていくのは、世の中の流れだろう。

では、インターネットによるテレビ番組を含むビデオコンテンツ配信にかなりの広告費がすでに使われているかというと、まだまだテレビに比べると小さい額だ。これは、ひとつには、まだ広告主側がインターネットによるテレビ番組配信の広告効果が十分見えていないため、もうひとつはターゲット広告や広告効果評価のための技術が十分整っていないためだが、ここ数年で大きく変わっていくに違いない。実際、先月あった、全米大学バスケットボール選手権大会(通称March Madness)では、全63試合をインターネットで生中継したCBSが、広告売上が昨年比30%増の総額$30 mil.となり(視聴したユニークユーザー数も56%増の270万人)、かなり早い時期に広告枠が売り切れたと言っているのが印象的だ。

インターネットでのビデオといえばYouTubeがその走りで、今でもサイトへのアクセス数では、YouTubeが圧倒的だが、YouTubeはもともとユーザーからの投稿(UGC: User Generated Contents)からはじまり、これには広告主がほとんどついておらず、ある人の推定によると、YouTubeは、年間4.7億ドル(約470億円)損失を出しているという。広告主が付くのは、やはりプロが制作したテレビ番組などだ。そのため、YouTubeでも、プロ制作のビデオを別枠扱いで対応するなど、力を入れ始めている。これ以外にも、大手テレビ局やハリウッドのディレクターがテレビに放送しない、インターネット専用番組を作成するなど、インターネットによるプロ制作のビデオコンテンツ配信は、とどまるところを知らない。

日本では、ようやくその動きがはじまったばかりだが、テレビ局や著作権者も、既存のビジネスモデル維持ばかりを考えていたら、新しい時代に乗り遅れ、ユーザーにも不便をかけ、ユーザーのテレビ離れが加速し、自分達も、持っているコンテンツで売上、利益を増大させる機会を見逃してしまう。そのことを認識し、早く新しい時代にあったテレビ番組の提供を、日本国内はもちろん、海外に住む日本のテレビ番組を見たがっている人のために行ってほしいものだ。

(4/01/2009)


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