デジタル・エコノミーの到来と日本の経済対策


4月15 日、米国商務長官のウィリアム・デーリーは、“The Emerging Digital Economy”(デジタル・エコノミーの到来)と題するレポートを発表し、それについての講演を行った。このレポートは、情報技術の米国経済への重要性、ビジネスへの重要性、そして消費者への重要性を述べている。この中で、商務省は米国のここ何年かのインフレなき予想以上の経済発展に、情報技術が大きく貢献していることを、数字を上げながら説明している。

レポートによると、例えば、コンピューター、通信を中心とするハイテク産業は、米国のここ5年の経済の伸びの4分の1以上に寄与している。情報技術がなければインフレ率は 1997 年は 3.1% であったが、情報技術製品の価格性能比の向上のため、実際は 2.0% であった。また、情報技術への投資額は、全てのビジネス機器への投資の45% 以上にも達している。これは1960年代には、わずか 3% だったものである。既に通信、保険、証券会社などは会社の生産性向上と効率化のため、情報技術に大きな投資を行っている。

また、これら情報産業に従事している人々は約740万人であるが、彼等の平均収入は約46,000ドルであり、全米平均を64% も大きく上回っている。そして、このような高収入な情報産業従事者は、今後さらに多く必要とされており、この先10年で約130万人必要と見込まれている。これは、自動車のビッグ3で自動車の製造に携わっている労働者の数よりも多い。このような労働需要の変化に対し、米国政府は民間の協力を得て、それがスムーズに行われるよう、教育の面も含め、行動を起こしている。

このレポートが述べる情報技術の中心にインターネットがあることは言うまでもない。私も以前から何度もインターネットの重要性、また、その急激な発展について述べてきているが、この商務省のレポートでは、次のような比較でインターネットの広がりの早さを表現している。昨年のインターネット利用者は、約1億人といわれており、その前年の4,000万人を大きく上回った。これはインターネットが一般大衆に使われはじめてから、わずか4年のことである。これに対し、ラジオを聞く人が5,000万人を越えるまでには38年、テレビを見る人が5,000万人を越えるまでには13年の歳月がかかっている。そして、ある予想では、インターネットでWorld Wide Web を見る人は、2005年には10億人を越えるだろうと言われている。

このレポートの内容としては、“デジタル革命”、“インターネットの形成”、“ビジネス間のエレクトロニック・コマース”、“商品やサービスのデジタル配信”、“商品の小売”、“デジタル時代の消費者”、“デジタル時代の労働者”、そして、“今後のチャレンジ”で結んでいる。“今後のチャレンジ”の中では、特に政府の役割について触れ、エレクトロニック・コマースの発展には、市場原理を中心とし、政府の規制や税金等の障害を作らないこと、各国政府による人為的な障害を作らないこと、また政府としては、インターネット上でグローバルな環境でビジネスを可能とするような、法的な環境の整備を行う役割があるとしながらも、それは官僚的なやり方であってはならないとしている。

米国政府はこのように明確に情報技術による経済の発展、そして、企業、国民、それぞれがその利益を得るべく、その方向性を示唆している。そして、インターネットがその中心となる最も重要なものであるということが、明記されている。

これに対し、日本の状況はどうであろうか。日本は今、経済の大変難しいところに来ている。バブル崩壊以後の処理が進まないまま年月が過ぎ、あらゆるものが曲がり角に来ている感がある。橋本首相を批判する向きも多いが、彼がやろうとしている規制緩和、行政改革、金融のビッグバンなどは、いずれも基本的には正しい方向であると思う。ただ、残念なのは、既存勢力に押され、実質的に十分それが行われようとしていないことだ。

その結果、これらはいずれも中途半端なままで、逆に経済のほうが停滞してしまった。これに対し、16兆円の経済対策をうち立てたまではよいが、そのお金の使われ方が何とも納得がいかない。減税も多少はあり、情報通信等の新社会資本のための予算もあるようだが、まだまだ旧来型の道路工事などの公共投資がかなりの規模である。政府関係者は旧来型の公共投資のほうが、向こう1年の名目成長率の押し上げに貢献しやすいとの意見のようだ。

それすらも疑わしい点があるが、百歩譲ってそうだとしても、それでは一時的なものでしかない。世の中が大きく変わり、デジタル・エコノミーが到来しようとしている今日、景気対策のために旧来型の道路工事などに多くのお金を使うというのは、どうしても納得できないものがある。一時的な数字合わせをしただけでは、将来またすぐに、経済が落ち込んでしまうのではないかと懸念される。

今、日本にふりかかっている問題は、単に短期的な経済成長率がどうのこうのという問題ではない。いままでの規制や裁量主義による官僚主導の経済発展から、もっと規制を緩和し、市場を自由にし、消費者に多くの選択を与える新しい経済による発展へ移行することである。これによって、日本全体の経済が新たな段階へと進んでいかなければならない。そのためには、どんどん成長していく産業もあり、すたれていく産業もあるだろう。それを規制やおかしな公共投資でその変化を止めるのではなく、むしろうまく変化がスムーズに行くようにするのが、本来、政府の役割であるはずだ。

その意味から言うと、今回の経済対策は、まずもっと大きな減税を行い、消費者が希望するものにお金を使わせること、そして、より自由な市場を作るための規制緩和であるべきであった。そして、多少の公共投資をするとすれば、そのほとんどすべては、到来するデジタル・エコノミーへの進展を促進するような、情報通信を中心とした新社会資本整備に徹底すべきであったと思う。あるデータによると、バブル崩壊後も、建設業に携わる人間の数は増え続けているという。だが、そのような人達の雇用を確保するための公共投資であっては、日本の将来のためにはならない。むしろ、より多くの人々が情報産業で働くことが出来るよう、そのための再教育等、日本のよりよい将来を作るための労働力の流動化を含めて考えるべきであったような気がする。

(05/01/98)


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