最近の米国ベンチャーキャピタル投資

私の住んでいる米国シリコンバレーといえば、ベンチャー企業、ベンチャーキャピタル投資の中心地と、誰もがそのようなイメージを持っている。実際、米国におけるベンチャーキャピタル投資の多くはシリコンバレー企業に当てられている。

インターネットのベンチャー企業が盛んに起業した3−4年前、ベンチャーキャピタル投資は一気に盛り上がった。4半期毎の投資額で言うと、シリコンバレー近辺のベンチャー企業への投資額は、1999年第1四半期に20億ドルを少し超える程度だったものが、ピーク時の2000年には第1、第2四半期で、それぞれ100億ドルにも届きそうな、大きな金額となった。

それが、2000年の後半から減少に転じ、2001年、2002年と下降の一途をたどり、2003年第1四半期には、ついに12.7億ドルと、この5年で最も低い水準になってしまった。ベンチャーキャピタルによる投資が急減し、その結果、優れた技術をもっているベンチャー企業でも、最近は資金が続かず、倒産してしまうと言われる実態を、数字が証明している。

では、シリコンバレーのベンチャー企業は、単に資金繰りに困って倒産を待つばかりなのであろうか。実は、そうではない動きがいろいろと出てきている。ベンチャー資金が異常に豊富だった2000年頃は、ベンチャーキャピタル会社も一生懸命投資先を探していたという面が強く、投資した会社の監視が甘くなっていた。これはずっと以前から存在した、経験の深いベンチャーキャピタルに加え、新たにお金を集めてベンチャーキャピタルを名乗る、経験の浅い、にわかベンチャーキャピタルが増えたせいでもある。このため、ベンチャー企業のほうも、お金は使い放題とばかり、高い家賃の高級オフィスを借りたり、どこかのリゾートに集まって社内ミーティングをするなど、かなり荒っぽいお金の使い方をしていた。

それが、最近はベンチャー資金がなかなか入らないということで、ベンチャー企業も支出を大幅に抑え、出来る限りベンチャー資金なしで、株式上場(IPO)まで持っていこうという動きが増えている。昨年の実績を見ても、ベンチャーキャピタルが出資している会社のIPOの数に比べ、その3倍近い数のベンチャーキャピタル投資を受けていない会社が、IPOを果たしている。今年の第1四半期では、まだ数字が小さいが、その比率は5倍に上がっている。

ベンチャー企業側も、ベンチャーキャピタルから多くの出資を受けると、彼らの思惑に合わせた経営を強いられる場合が多く、問題も多い。従って、ベンチャーキャピタルの持っている資金が減ったということだけでなく、ベンチャー企業自身が、あまりベンチャーキャピタルからの資金を求めなくなったということも、ベンチャーキャピタル投資総額の減少に貢献している。

ベンチャーキャピタル投資がどんな分野に向かっているかを見るのも、今後の世の中の動向を知る上で重要である。インターネット・ベンチャーのバブルがはじけた数年前、ベンチャーキャピタルはインターネットを含むIT産業から手を引き、投資がバイオ等へ回ったと言われたことがあった。はたして、今はどうなっているか。

地元San Jose Mercury紙によると、今年第1四半期のシリコンバレー(新聞紙上では、サンフランシスコ・ベイ・エリアという言葉を使っている)企業へのベンチャー投資のうち、バイオ関連は16%であり、残りのほとんどはIT関連である。通信・ネットワーク関連企業への投資がベンチャー投資全体の29%、ソフトウェアが19%、半導体が13%、エレクトロニクス・ハードウェアが9%、ITサービスが8%と、まだまだIT産業健在である。米国全体でみても、バイオ関連が21%と少し上がるものの、通信ネットワーク関連が25%、ソフトウェアが20%と、それほど大きな差はない。

通信・ネットワーク関連市場は、通信サービス会社の過剰投資等により、特にここ数年かなり冷え込んでおり、通信機器メーカーは大幅な人員削減などを余儀なくされている。しかし、ベンチャーキャピタル投資額が最も多いのがこの分野であるということは、まだまだネットワーク関連に将来の大きな伸びが期待されていることがよくわかる。過剰投資で一時的に市場が悪化しても、大きな流れとしては、世の中の更なるネットワーク化が極めて重要であることを、再確認させてくれる。

通信・ネットワーク関連分野の中で、さらにどんな企業にベンチャー資金が入っているかを見ると、やはり、今注目されている無線LAN関連や、ブロードバンド関連の会社が多く目につく。それに加え、ネットワーク・コンバージェンス(ネットワークにおける音声、データ、ビデオ等の融合)やRFIDタグ(無線IDタグ)に関連したものもいろいろと見受けられる。このあたりは当然であるが、これ以外に、光関連の企業もいくつか見られることは注目される。ネットワーク・インフラへの過剰投資のため、しばらく低迷している光関連市場であるが、将来はまた明るいと言える。

ITサービス分野を見てみると、ここにも面白い結果が見える。インターネット関連ベンチャーのブームはとっくに去ったが、ITサービス分野で投資を受けた会社を見てみると、そのほとんどがインターネット関連の会社である。一時的に、いい加減なビジネスモデルしか持たない、たくさんのインターネット関連会社が、ベンチャー資金を使い果たして市場から消え去って行ったが、これからのITサービスは、やはりインターネットを中心に広がっていくという点では、まだまだインターネットがベンチャーとして起業する場合の、中心分野の1つであると言える。

これ以外にも、セキュリティ関連企業が、分野的には、通信・ネットワーク、ソフトウェア、ITサービスなどそれぞれ別々に分かれて入ってしまっているので見難いが、幅広くベンチャー資金の入っている分野である。

世の中は、なかなかIT不況から抜け出せないという話をいまだに聞くが、ベンチャーキャピタルの最近の投資先を見る限り、これからもITの発展に大きな期待がかかり、そのなかでもネットワーク、そしてインターネットが中心的役割であると言うことは間違いない。

(06/01/2003)

メディア通信トップページに戻る