魅力が増したiPhone 3G発表

6月9日、Appleが新しいiPhone 3Gを、San Franciscoで行われたAppleのWorldwide Developers Conferenceで発表した。iPhoneの最初のものが発売開始されたのが昨年6月29日だから、それからほぼ1年になる。昨年の発売では、タッチスクリーンを使った新しい概念の使い易いユーザーインターフェースに目を見張ったが、同時に、ネットワーク接続は今や主流になってきている3G(Third Generation)ネットワークをサポートしていなかったり、価格も8GBのものが$599と、かなり高価だったため、買い控えた人も多く、いづれ次のバージョンが発表され、3Gネットワークのサポート、価格の低下等が実現するのではないかと期待されていた。また、直近には、iPhoneの在庫切れが報道されていたので、そろそろiPhoneの次のバージョンが出てくるだろうということは、皆予想していた。

すでにその発表内容を知っている人も多いと思うが、主なものを上げると、次のようになる。まず最も大きな衝撃だったのは、価格だろう。昨年最初の発表当時$599、その後$399に下がった8GBモデルのiPhoneが、今回は$199となった。以前の半分、最初の発表からは、1/3という価格だ。これは、これまで価格が高いことが理由で購入を控えていた人たちにとっては、かなり魅力的な価格だ。実際、Appleが実施した調査によると、iPhoneをこれまで買わなかった人の理由の56%は、価格が高いためだったとわかっていた。

また、予想通り、3Gネットワークのサポートが入った。これにより、インターネットとの接続速度が今までの2倍から2.8倍くらいになる。これまでもWiFiを使っての高速ネットワーク通信は可能であったが、これは、WiFiが使用可能な場所にいかなければならず、いつでもどこでも、というわけにはいかなかったのが問題だった。

米国では、携帯端末でビデオを見たりする人はほとんどいないだろうと、以前は言われたことがあったが、iPhoneはキーボードがないため画面も比較的大きく、画面の解像度もいいので、結構ビデオを見るのも不自由しない。そのため、調査会社のM:Metrics(現在はcomScoreの一部)によると、iPhoneユーザーの31%はモバイルTVまたはビデオを見た経験があるとのことである。これは、一般の携帯端末でのビデオ視聴経験者がわずか4.6%であることを考えると、大幅に高い数字である。同じように、ソーシャル・ネットワーキング・サイトへのアクセスも、通常の携帯端末の場合の12倍もあり、iPhoneは他の携帯端末とは異なった使われ方をしているのがわかる。このような使い方をされているiPhoneであるから、3Gネットワークが使え、インターネットと高速につなぐことができる意味は大きい。

それから、GPS(Global Positioning System)が組み込まれ、位置情報が得られるようになった。これによって、位置情報を使ったいろいろなアプリケーションが考えられるようになった。たとえば、アドレス帳にある知り合いが近くにいた場合、それがわかるようにすることが可能なアプリケーションも出来ている。

GPSの例にもあるように、多くのアプリケーションがこれからiPhone用に出てくるだろうという点も大きい。これは、昨年発表当初オープンにしていなかったSDK(Software Development Kit)が使用可能となり、ソフトウェア開発会社が一斉にiPhone用ソフトウェア開発に動いたことが大きい。すでに25万のSDKがダウンロードされたというから、これからどんなアプリケーションがiPhone用に開発されてくるか楽しみだ。

また、ビジネス向けを意識して、企業でよく使われているEメールのMicrosoft Exchangeとの連携強化ができ、Microsoft OfficeのWordやExcel、PowerPoint等の資料がiPhoneでも見ることが出来るようになった。SDKがオープンにされたことにより、これからビジネス向けのアプリケーションもどんどん増えてくるだろう。

価格については、先に書いたとおり、大幅な価格低下が実現したが、これは、単に価格が引き下げられたというだけでなく、iPhoneの昨年発表当初のビジネスモデルに変更が加えられたことが大きく影響している。2007年7月のコラムで書いたように、AppleはiPhoneによって、携帯電話サービス会社と携帯端末会社の関係を大きく変えてしまった。iPhoneを単体でAppleストアで購入し、その後iTunesを通してAT&Tのサービスにつなげる、という方式をとった。そして、AppleとAT&Tの契約では、AT&Tに入る通信サービス収入の一部もAppleに分配される、というものだ。

しかし、このような方式を取った結果、一部ユーザーはiPhoneのUnlockを行い、AT&Tではなく、海外を含む世界の他のネットワークにつなげられるようにしてしまった。そのため、AppleもAT&Tも、iPhoneが売れれば得られるはずの収入が、Unlockされた場合、得られない状況となってしまった。ある推定によると、その数はこれまで販売された600万のiPhoneの1/3とも、半分とも言われているから、とても無視できる数字ではない。また、このような方式では、これまでの携帯端末のように、その価格の一部を携帯電話サービス会社が負担し、そのサービスと契約することを条件に、携帯端末の価格を下げることができなかった。

そこで、今回は、iPhoneの価格低下と引き換えに、Appleも従来からの携帯電話サービス会社と携帯端末会社の関係に一歩近づき、iPhoneのコストを一部AT&Tに負担してもらい、その代わり、iPhone購入時には、AT&Tとのサービス契約を必須とした。そして、Appleは、通信サービス収入の一部を分配してもらうことを取りやめた模様だ。これにより、これまでのようなUnlockの可能性も少なくなったと言える。

Unlockの可能性が少なくなるもう一つの理由は、今回の発表で、世界22ヶ国、今年末までには70ヶ国でiPhoneが販売される、ということもあげられる。日本では、ソフトバンク・モバイルがiPhoneを販売することになったことは、知っている方も多いだろう。このように、今回のiPhone 3Gの発表は、単に新たな機能追加だけでなく、ビジネスモデルの変更が加わった点も大いに注目される。

そして、もう1点は、いよいよAppleが本格的にiPhoneでビジネス分野に参入しようとしている点だ。こちらについても、多くのビジネス関連機能追加が行われた。しかし、まだ企業として正式にiPhoneを採用するには、マネジメント面、セキュリティ面での問題も指摘されており、さらに次の第3版を待つことになるかもしれない。

ただ、会社が正式に社員に配るという方式ではなく、社員が個別にiPhoneを購入して仕事にも使う、ということであれば、それに十分足るものであるように思う。そういう意味で、会社が携帯端末を支給せず、社員の使った携帯電話料金を精算するようなところでは、次第にiPhoneの利用が広がっていくのではないだろうか。価格も下がり、ネットワーク接続も高速になり、ビジネス機能も増え、これからさらに多くのアプリケーションが出てくる可能性を考えると、今回の発表で、iPhoneは、かなり魅力的なものになってきた。昨年は購入を見送ったが、そろそろ買い時のように思えるが、皆さんはどうだろうか。

(06/01/2008)


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