デジタル・エコノミーの到来、その2

昨年4月の“The Emerging Digital Economy”(デジタル・エコノミーの到来)と題するレポートに続き、米国商務省は、“The Emerging Digital Economy II”をこの6月に発表した。私が何回もレポートしていることだが、この商務省レポートでも、エレクトロニック・コマース(ここではインターネットを使ったものについて述べている)が昨年のどんな楽観的な予測をも上回ったこと、そしてインターネットがビジネスのあらゆる面で、そのやり方を変えてきていると、冒頭のメッセージで述べている。

レポートによると、まずインターネットが引き続き大きな伸びを示していることに言及している。それによると、ここ1年で世界のWebユーザーは55%、Webサーバーは128%伸びており、今年5月現在、世界で1億7100万人がインターネットを使っているとのことである。ただ、国別ではかなり差があり、米国では国民の37%が仕事場または家庭からインターネットにアクセス可能なのに対し、イギリスでは15%、日本やドイツはまだ10%にとどまっている。

インターネット・コマースの大きな伸びについては、パソコン・メーカー大手のDellが今年の第一四半期にはインターネット経由による売上が一日1,800万ドル(約22億円)、売上総額の約30%に達していること、インターネット上の旅行代理店であるTravelocity.comが昨年に比べ、売上が156%伸び、今年の最初の3ヶ月だけでも120万人の新しい会員を集めたことなどが語られている。

また、今回のレポートでは、情報通信産業の果たしている役割について大きく取り上げている。これによると、情報通信関連製品の価格は毎年下降し続けており、他の産業では、例えば1996、1997年にそれぞれ2.6%づつ製品価格が上昇しているにもかかわらず、情報通信製品については、-7.0%、-7.5%と大きく下降している。これによって米国のインフレなき経済発展が可能となっているわけである。

情報通信産業の全産業に対する経済貢献の割合は、まだ約8%と低いが、それでも5−6年前の約6%に比べると、大きく伸びている。また、経済全体を示すGDI(Gross Domestic Income)の伸びでは、その貢献度が全体の約30%と極めて高くなっている。

また、レポートでは情報通信産業に携わる人についても触れている。それによると、その就業者数は1年で7.7%という高い伸びを示している。なかでもソフトウェアとサービスの分野での伸びが大きく、8.3%となっている。これに伴い、情報通信分野での就労者の平均賃金は53,000ドルと、全体平均の30,000ドルを大きく上回っている。これに合わせ、情報通信技術者を養成するためのトレーニング・コースなどが多く設立されていると述べている。

さらにレポートでは、情報通信産業に直接関わる人意外に、情報通信ユーザーとして働く人についても触れており、その数を合わせると、1996年現在で46%、2006年には57%に達すると予測している。まさに米国は情報通信を柱に大きな経済発展を続けているという姿がよくわかる。

これに対し、日本の現状はどうか。株価等がようやく上昇しはじめ、明るい兆しも見え始めているようではあるが、企業はいよいよ本格的にリストラをはじめており、国民一人一人を見てみると、雇用不安が拭い切れず、消費の回復はまだまだのように見える。政府も雇用の確保を最大の懸案ととらえて対応しようとしているが、問題はその中身であろう。

日本の今の状況を見ると、必ずしもすべての産業で経済の停滞をきたしているのではなく、それぞれの企業がどれだけデジタル・エコノミーに関連したビジネスを行っているか、デジタル・エコノミーにどう対応しているか、しようとしているか、によって大きく異なると思う。

米国商務省のレポートにある情報通信のソフトウェアやサービスに関連した分野に従事している企業はビジネスも順調で、会社によっては、まだまだ人が足りないところも多いのではないか。また、実際そうでなければ今後の日本がとんでもないことになってしまうわけだが。ソフトバンクなどは、インターネットによる証券取引、書籍、おもちゃ等、米国でいえばE*Trade、Amazon.com、E*Toyなどを全部まとめて手がけ、インターネット関連で一大グループをつくろうとしているが、おそらくその成功の可否は、いかに適切な人材をそろえられるかにかかっていると思う。

米国商務省のレポートを見るまでもなく、これからの産業のキーは情報通信である。日本が今後発展していくためには、いかに人材を情報通信産業にうまくシフトできるかにかかっていると思う。そのために政府がやるべきことは、企業にできるだけリストラをしないように指導するなどということではなく、人材が情報通信産業にうまく移れるように、あらゆる手立てを施すべきである。例えば、会社を変わることへのデメリットをなくす(企業間で持ち運べる年金401Kなどもその一つ)べく、あらゆる規制を取り払うことが重要である。また、情報通信産業においても、単に既存企業だけでなく、新たに多くのベンチャー企業が出現し成功できるように、また、うまく成功出来た会社の社員がその恩恵に十分浴せるように、規制緩和していくべきである。そして、雇用対策は公共事業で道路や橋を作るのではなく(もちろん必要なものは実施すればよいが)、情報通信産業育成のための人的トレーニング等に費やすべきである。

(7/1/99)


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