Webvanのチャレンジと失敗

コンシューマー向けのインターネット企業(ドットコム企業)として有名だったWebvanが7月9日、その幕を閉じた。日本でも新聞に報道されていたので、知っている人もいると思うが、Webvanは、インターネット専用の食品スーパーとして立ち上げられたベンチャー会社である。食品スーパーをインターネット上で構築し、コンシューマーはインターネット上で注文すれば、指定した30分の時間枠内(たとえば6時から6時半)に配達してくれるというものである。しかも配達料無料、時間内に配達されない場合は、金額を割り引くというものであった。そして、商品自体の値段も普通のスーパーなみ、また、商品の質も普通のスーパーに引けをとらないというものであった。

会社自身は1996年12月という比較的早い時期に設立されたが、食品を保管し、配送するための大きな建物の建設、冷蔵されたまま商品を配送できる専用の小型トラック等、準備期間を要し、実際にサービスが開始されたのは、1999年6月のことである。その9月には、当時Andersen Consulting(現在のAccenture)CEOだったGeorge ShaheenをCEOに迎え、さらにその11月には、まだわずかな売上高にもかかわらず、NASDAQに株式上場し、その日の最高値が34ドル(終値は25ドル弱)に達するなど、順調な滑り出しだった。

大きな配送センターにその作業員、専用トラックにその運転手など、多くの初期投資を必要としたが、当時の極めて良好な投資環境から、資金調達も順調で、この7月に倒産するまでに、$850Million(約1000億円)を調達することが出来た。今年3月に競合企業のHomeGrocer.comを買収したが、HomeGrocer.comが調達した資金を加えると、$1.2Billion(約1400億円)にものぼる。

にもかかわらず、Webvanは数週間前にその短い幕を閉じてしまった。このような結果になった今、いろいろとその問題点を挙げることは、比較的やさしいとも言えるが、これからのインターネット・ビジネスを考える上で、Webvanの失敗原因と思われることを理解しておくことは、決してマイナスではない。

Webvan失敗の原因はいろいろと考えられる。まず、他の失敗したドットコム企業にもあったように、市場の伸びを予想以上に想定し、それに合わせた大きな投資をしたが、市場が思ったほど伸びず、大きな赤字が続き、そのうち市場環境が悪化して資金難に陥り、倒産したというものである。これは明らかにWebvanにも当てはまることである。ただし、他の多くのドットコム企業の場合、競合企業の乱立で共倒れしたという分野もかなりあるが、Webvanの場合は、一番の競合企業であるHomeGrocer.comを買収したこともあり、また、他に小さな競合企業はあったにしても、Webvanと競合するような大きな企業が乱立した結果苦しい立場に追いやられたという面はうすい。Webvanの場合、単独で事業を拡大し、それに市場がついて来なかったということである。

この事業拡大については、おそらくWebvanの考え方としては、資金調達も順調だったので、インターネット・スピードで出来るだけ早く事業を拡大し、他の追随を許さない体制をとろうとしたことであったと思う。他の追随を許さないとい点では、確かに十分に成功したといえる。実際、Webvanの顧客も1999年のサービス開始以来伸び続け、倒産直前には76万人を超えていた。

しかし、スピードを重視するあまり、インターネットによる食品販売と無料配送というビジネスモデルが、本当に将来利益を上げることができるビジネスモデルだったのかどうか、それが確認されないまま事業が急拡大されてしまった結果、大きな投資を短期間にしてしまい、その投資が回収されないままに終わってしまったといえる。

Webvanは早くからその事業を全米展開し、一時は1ヶ所(最後は7ヶ所)でビジネスを行っていた。このような新しいビジネスモデルは、まず1−2ヶ所で始め、ビジネスモデルとして成り立つことが確認された後に全国展開するべきだったという指摘は、結果から見ると、この市場については正しい。

しかし、もしこのビジネスモデルがうまく行っていた場合はどうか。この場合は、逆にWebvanが1−2ヶ所の市場でビジネスモデルを試している間に、他の地域では競合企業が似たようなビジネス展開を始めたに違いない。そうなると、Webvanは多くの資金を持っていて、最初に全国展開していれば、全米を制覇できたのに、なぜそれをしなかったのか、という批判を受けていただろう。Webvanはこのような状況を想定し、そして破れたのである。

Webvanの失敗のもうひとつの原因は、潤沢(に見えた)資金があったため、コスト意識が低く、「お金の心配をする必要はない」という空気が会社にあったということである。これは、内部にいたわけではないので、その真偽のほどは明らかではないが、経営幹部がそのような発言を社内でしていたという新聞報道を見ると、恐らくそのようなことが起こっていただろうということは容易に想像される。

では、インターネット経由で食品を販売し、決まった時間に配送するというサービスは、コンシューマーに受け入れられなかったのであろうか。Webvanが76万人のユーザーを持っており、昨年からその数字もどんどん伸びていたことを考えると、コンシューマーにこのようなサービスが受け入れられる素地が十分あったことを証明している。実際、ユーザーの声を聞くと、Webvanのサービスはよく、この先そのサービスがなくなることを残念がる声も多い。

しかし、その人数はWebvanが予想したより少なく、また、その数は増加していたものの、その増加スピードは残念ながらWebvanの予想を大きく下回ったと言える。インターネットは極めて早いスピードで世の中に広まったが、いままでのやり方を変えるものについては、その分野分野で変革のスピードが違っている。証券取引のようなものは、コンシューマーもかなりのスピードでインターネットに移ってしまった。また、航空券や劇場の切符購入なども、その便利さから、どんどんインターネット経由によるものが増えている。これらのユーザーは、パソコンを使い慣れた人達が多かったことも一つの大きな要因であった。

しかし、Webvanがはじめた食品販売は、主に主婦がスーパーマーケットに行ってやっているものである。もちろんその中にはパソコンになれており、スーパーに買い物に行く時間がもったいないという人達もいるし、彼らを中心にWebvanのユーザーも広がって行ったと思われるが。

また、食品の買い物は、事前に何を買うか決めることが出来ず、スーパーで実際に売っているものを見て、決めている場合も多く、それに比べてWebvanのサービスは、事前に全て買い物を計画的にする必要がある。これが、ユーザーの間でも、Webvanを利用するときもあるが、スーパーに買いに行く場合もあるという状況を作り、思ったほどのビジネスボリュームが得られなかった原因の一つにもなっている。

インターネットによるe-エコノミーは、誰にとっても未知の新しい世界である。

Webvanは市場や見込み客の反応、そのスピードを見誤り、残念な結果となったが、このようなチャレンジが行われたことに対しては、評価したいと思う。また、このようなチャレンジを可能にするベンチャーコミュニティを持っているのが、米国の強みであろう。何でも成功するわけではないが、失敗に終わるかもしれないこのようなチャレンジを皆で支援し、失敗しても、その失敗からいろいろなことを学んで、また新たな挑戦をする。ベンチャーキャピタル投資も、一時ほどの異常な高さではないが、全くなくなったわけでは勿論なく,以前の水準に戻ったというくらいである。Webvanは失敗に終わったが、まだまだこれからのベンチャー企業による新たなチャレンジが楽しみである。

(01-8-1)


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