本格化するMicrosoftとGoogleの戦い

この7月、MicrosoftとGoogleが、それぞれ相手に対抗する大きな発表を行った。まず7月7日にGoogleが、Chrome OSという独自OSを発表した。そして、以前からくすぶっていた、MicrosoftとYahooの提携が7月29日に発表された。

Chrome OSはこれまでGoogleがMicrosoft対抗として発表してきた、eメールのGmail、ブラウザーのChrome、ウェブ上のオフィス・アプリケーションのGoogle Docs、携帯電話向けOSのAndroidに続き、いよいよ最後の砦、パソコン向けOSにまで戦いを仕掛けてきたことになる。

一方のMicrosoftは、新しいウェブの時代にサーチによる広告収入で大きくGoogleに水を開けられていたものを奪回するため、Yahooと提携した。1年半前にはYahooをまるごと買収しようとしていたが、今回はサーチのみの提携であるが、そもそもこれがMicrosoftのほしかったものであるから、この提携にそれほど不足はないだろう。

情報通信業界では、最近はMicrosoftの一人勝ちというイメージから、Googleの一人勝ちというイメージになりつつあり、Googleがこれだけ対Microsoftの弾をそろえたのだから、いよいよ覇権がMicrosoftからGoogleに移りそうに見えなくもない。また、Googleのサーチを中心とするインターネット広告収入が、MicrosoftのWindows部門売上の1.7倍になった、などと言われると、これで主役は入れ替わったかと思いそうだ。しかし、状況はそれほど簡単ではない。

確かにGoogleはサーチを中心とするインターネット広告で大成功を収めた。しかし、今のところ売上のほとんどはこれに頼っており、その伸び率は、近年かなり下がって来ている。したがって、GoogleがMicrosoftの牙城を攻めているのは確かだが、それは、自分達のこれからの成長を考えるとき、サーチによるインターネット広告だけでなく、ウェブベースのソフトウェアの提供というものに重点を置いているからに他ならない。

一方のMicrosoftはパソコン中心の世の中から、インターネット中心の世界に移り、そこでのビジネスでは、サーチを含め、まだまだ主役になれていない。この分野で主役にならないとMicrosoftの成長はない、ということでGoogleの牙城であるサーチビジネスに力を入れているわけだ。したがって、最近の両社の動きは、お互いに今後の成長の場を求めた苦悩の結果、と言える。

GoogleはMicrosoftの強い分野に次々と参入してきているが、まだまだいい結果は出ていない。例えば、ブラウザーでは、MicrosoftのInternet Explorer(IE)が65.5%、Mozilla Firefoxが22.5%に対して、GoogleのChromeはまだ1.8%のシェアに過ぎない。オフィス・アプリケーションにいたっては、Microsoft Officeの94%に対して、Google Docsは、たったの0.04%だ。今後時間がたったとき、どうなるかはわからないが、当分の間、これらの分野でGoogleがMicrosoftの本格的な脅威になる様子はない。特にMicrosoft Officeは、WordやExcel、Powerpointなど、ビジネスで毎日のように使われているものであり、すでにこれらのソフトウェアで作られた文書等は数限りない。これをGoogle Docsにした場合、互換性が限りなく100%近くならない限り、Microsoft OfficeからGoogle Docsへの移行は進まないだろう。

ただ、ブラウザーやサーチエンジンなどは、新しいバージョンで使い易いものが出てきたら、簡単に他のものにユーザーは移ることができるので、短期間で市場シェアに変化が起こることは十分あり得る。そういう意味では、もしMicrosoftがYahooとの提携により、Googleよりすぐれたサーチエンジンを開発できれば、この市場を取り返すことは可能だ。実際、ブラウザーでは、昔Netscapeが市場をほぼ独占していたところにMicrosoftはIEで参入し、今は66%近いシェアを持っているので、このようなことをやった実績がある。 もちろん、この市場はMicrosoftとしても他社に取られる可能性もあり、実際、Mozilla Firefoxは後発ながらIEの市場をある程度奪い、今は23%近くまでシェアを上げて来ている。Google Chromeは今のところシェアを余り取れていないが、今後の機能向上によっては、シェアを広げる可能性はある。

さて、先月発表されたChrome OSはどうか。まだ発表のみで、製品が出てくるのは先になるし、詳細は発表されていないので、実際に製品が出てきてみないとわからない面も多いが、最初にnetbooks(ノートパソコンをさらに小型軽量化し、ウェブアクセスを中心に使用することを目的としたパソコンの一般名詞)にターゲットを置いているのは、的を射ている。Chrome OSを搭載したnetbooksが市場に登場するのは2010年後半の模様だが、すでにHP、Lenovo等大手メーカー(Dellは含まれていない)がChrome OS搭載のnetbooksに名乗りを上げているのは、注目される。Netbooksの利用は主にモバイルだったり、開発途上国などで、これまでパソコンを持たない人たちがインターネット・アクセスを中心に使う場合が多いので、まさしくGoogleの狙っている市場といえる。そして、モバイルで簡単に使えるように、身軽で立ち上げ時間も短く、それほどパワーのないCPUチップでも利用可能で、セキュリティにも特別な配慮をしているというのは、まさしくnetbooks向けのOSといえる。

これまでパソコンを使っていなかった人たちには、簡単で使い易く、安価なnetbooksで使えるOSということで、かなり便利なものになるに違いない。このようなパソコンを初めて使うユーザーがWordやExcelと同じようなソフトウェアを使う場合は、これまで作った文書の蓄積がないため、新しいウェブベースのGoogle Docsで十分な可能性がある。ただし、別な人から送られてくるWordやExcelの文書が読める必要はあるだろう。

そういう意味で、Googleのこれまでのブラウザーやオフィス・アプリケーションに比べ、新しく発表されたChrome OSは、netbooks市場で、より早くそのインパクトが市場に出てくる可能性がある。ただ、既存のパソコンユーザーにまでChrome OSを浸透させるには、Microsoft Office、これまで開発されてきたユーザーやサードパーティのソフトウェアが互換性を持ちながらChrome OS上、あるいはWeb上で動く必要があり、そこまでたどり着くまでには、長い年月を要するだろう。

いづれにしても、MicrosoftとGoogleがいろいろな分野で競争することにより、一社独占の形でなく市場が発展し、他のプレーヤーにも新たに市場参入の機会が増えることは、ユーザーにとって望ましいことだ。

(8/01/2009)


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