10周年を迎えて

このコラムの第一号が1995年9月であったので、今回で、ちょうど10周年を迎えることになった。その間、皆様からのコメントなどを励ましに、お蔭様で長く続けることができました。有難うございました。 

今年1月にも「インターネット この10年」というタイトルで、インターネットのこの10年間を振り返ってみたが、ずいぶんといろいろな動きがあった。その中身については、すでに1月に書いたので、繰り返さないことにするが、ご興味のある方は、そちらをごらんいただければ幸いである。

この10年を経て、インターネットは、われわれにとって、個人にとっても、企業にとっても、なくてはならないものとなった。インターネットの揺籃期を経て、淘汰されるものは淘汰され、そこで生き残ったインターネット関連企業は今、元気がいい。個人にも、企業にもインターネットが浸透し、またブロードバンドによる高速通信もどんどん広がってきているので、インターネットが始まった当初に考えられ、しかしながらインフラが整備されていなかったために実現できていなかったものが、どんどん実現してきている。

特に直近のこれからの数年を考えると、以下の3つが本格的なうねりとなって、既存業界を揺るがして行くだろう。 1つ目は、AppleがiPodおよび音楽配信サイトのiTunesで仕掛けた、インターネット音楽配信である。インターネットによる音楽配信は、インターネットがはじまった当初から予想されていたことだが、Napstarで一般のインターネット・ユーザーが不法に音楽をコピーしあうようなことが起こったため、音楽コンテンツを持っているCD会社等が、長い間、消極的であった。しかし、CD会社一つ一つを説得していったAppleのおかげで、ようやくインターネットによる音楽配信が本格化してきた。日本では、まだすべてのCD会社が音楽配信する態勢にないようだが、これも時間の問題である。CD販売が減るからインターネット音楽配信しない、などという考え方は、もはや通用しない。音楽CD業界は、大きくビジネスモデルが変わってきている。

2つ目は、広告業界である。インターネット広告も、10年前のバナー広告では、広告効果も少なかったが、ブロードバンドを使ったインターネットでは、ビデオが使え、広告効果もテレビに近づいてきた。しかも、テレビの広告では、どれくらいの人が見てくれているかは、視聴者のサンプル調査で大体のことしかわからないのに対し、インターネットでは、誰が見たかがわかるだけでなく、その人に合わせた広告をカスタマイズして提供することも出来る。さらに、広告に興味をもった人が、より詳しい内容を見るためにクリックすると、間違いなくその広告を見たことがわかり、単に画面上に出ていたものを目にしたか、その広告を本当に読んだかの違いもわかるから、成功報酬型の広告ができるし、どんな人がその広告に興味をもったかの情報も得られ、テレビでの広告などとは、格段の違いがある。

インターネット広告がこのように大きく発展してきたのは、インターネットを見る人がテレビを見る人の数に近づいてきたこと、ブロードバンドで高速通信できるようになったため、ビデオによる広告が実現できるようになったこと、米国などの先進国では、テレビを見る時間よりも、インターネットをやっている時間のほうが長くなってきたこと、インターネット広告への反応に対する分析手法が整備されてきたこと等が大きな要因として挙げられる。その結果、企業がインターネット広告に支払う金額が大きくなり、Yahoo、Googleなど、インターネット広告収入によるビジネスモデルが確立され、大きな利益を出す企業が出てきたわけだ。

米国マクドナルドは、4年前まで広告費の80%以上をテレビのプライムタイム広告に使っていたが、現在は50%以下で、テレビを使わなくなった分のほとんどはインターネット広告に移っていると言っている。メディアの視聴時間は、15%がインターネットになったが、広告主がインターネット広告に投じるのは、まだ予算全体の2−4%に留まっているとのことで、これからさらにインターネット広告が伸びることは、間違いない。

3つ目は、インターネットによるテレビおよびビデオ配信である。今年に入って、日本でも米国でも、有力テレビ局が、相次いでインターネット経由による放送、VOD(Video on Demand)を始めると発表している。ただ、スタンスは日米で多少異なり、日本ではVODによる有料サービスが多いのに対し、米国では無料で放映し、広告収入を得ようという考え方が主流である。

どちらが成功するかは、もちろんやってみないとわからない面があるが、私から見ると、VODによる有料サービスは、かなり安くないと、視聴者が頻繁に使うところまでは広がらないように思う。例えば、日本テレビが予定している、ドラマ3−15分で100円というのは、レンタルビデオ等の値段を考えると、いかにも高い。一方、米国では、無料で放映、広告収入でビジネスとしての帳尻を合わそうという考え方が中心で、よほど広告が邪魔でない限り、このほうがはるかに視聴者に受け入れやすいだろう。あとは、広告収入で十分な収入が得られ、ビジネスモデルとして成立するかどうかだ。 どちらにしても、まず視聴者がついてこないと話にならないという意味で、米国方式のほうが成功率が高いと思う。有料VOD方式も、もっとレンタルビデオなどと比べても競争力のある低価格にすれば、十分成功の可能性はあるだろう。

インターネットに関連したインフラが整ってきたために、いままで「言われていたが、実現していなかった」ものが、どんどん実現してきている。そういう意味で、これからのインターネットの動向を占う上で重要なのは、以下のようなことである。

― いままでインターネットの世界では、世の中がこう変わる、と言われていながら、まだ実現していないものは何か
― 実現していない原因は何か
― その原因はいつ頃取り除かれそうか
これらを見ることにより、10年前から言われていたことが、いつ頃実現しそうなのかが見えてくる。これは、新たなビジネスチャンスであるし、自分で、あるいは自社でそのビジネスに参入しない場合でも、そのようなことをやっている会社の株を買うという形で、これからのインターネットの発展に乗って、利益を得ることが出来る。

そういう意味で、今、淘汰の道を通り過ぎ、生き残ってインターネットの中心的な存在となっている企業は、これからもどんどん成長していくであろう。 長期的な観点で考えると、「インターネット関連株は買い」だ。産業革命のときもそうであったが、社会的な大きな変化は、最初に大きな動きがあり、その後、一時的に新興企業が淘汰される、ゆり戻しの時期を経て、いよいよ本格的な広がりを見せる。インターネットの本格的な広がり、インターネットによる社会の変化、それぞれの業界でのビジネスモデルの変革も、いよいよこれからが本番である。

(09/01/2005)


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