Linuxは本物か?

先月、カリフォルニアのサンノゼ市でLinux Worldというショウが開かれた。Linuxというパソコンやサーバー用のオペレーティング・システム(OS)が最近急激に注目されはじめている。はたしてLinuxはソフトウェアの本流になり得るのであろうか? メーカーにとっても、ユーザーにとっても、そろそろLinuxが無視できないところまで来たといえる。

Linux Worldが行われたのはサンノゼ・コンベンション・センターというところである。一般にシリコンバレーでスタートするこのようなビジネスショウは、しばしばここからスタートする。そしてその規模が大きくなり、サンノゼでは狭くなると、次はサンフランシスコのコンベンション・センターに移る。さらにここが手狭になると、ロサンゼルスに移る。そして最後はラスベガスである。ネットワークの中心的ビジネスショウであるNetWorld+InterOpは確かこのような順番で会場を年々移動し、大きくなっていったと記憶している。最近の例ではInternet Worldが5年ほど前にサンノゼをスタートし、サンフランシスコを経て今はロサンゼルスで開催されている(東部などでも別途開催されているが)。Internet Worldの場合、その後エレクトロニック・コマースでいくつか別のビジネスショウが出現したこともあり、インターネット関連のビジネスショウ全体としては増加しているものの、Internet World自体はこれ以上大きくならない可能性が高い。

今回のLinux Worldは、その意味で出発点にたったという段階である。サンノゼ・コンベンション・センターにしても、まだ半分程度しか埋まっていない。しかし、Linuxがこれからさらに大きくなるであろうという予感は十分に感じられる。特に、IBM、HP、Sun、Compaq、Dell、Oracle、Motorola、Computer Associates、Sybase等の大手企業がすでにブースを構えているというのは、開始当初のInternet Worldにも見られなかった光景である。

では、実際にLinux上で動くアプリケーション・ソフトウェアは沢山出展されていたのであろうか。ザッと見た感じではLinux上で動く色々なソフトウェアが紹介されている。しかし、一歩踏み込んで質問を投げかけて見ると、まだまだベータ版でまもなく出荷するというものが多く、既に出荷をはじめているものも、ついここ数ヶ月以内に出荷を始めたばかりのものが多い。まだまだこれからというのが実情である。

また、ショウに来ている人たちを見ても、ソフトウェアの購買に発言権のあるビジネスマンというよりも、プログラマーやシステムに関わっている技術者の人がほとんどのように見受けられた。この観察が正しいとすると、Linuxの利用に一般企業が本気になっているようには、まだ見えない。

しかし、これはあくまでも今回のLinux Worldでの現状であり、Internet Worldがそうであったように、Linux Worldもこれから急激に大きくならないとも限らない。Linuxの性格を考えると、いままでのパソコン用OSでWindowsに対抗しようとして出来なかったものとは違う面が浮かび上がってくる。そして、これらはインターネットとも通じるものである。例えば、Linuxには次のような性格がある。
●オープンである
●無料である
これはインターネットのブラウザーの時と同じであり、あっという間に広がる要素を持っている。OSはブラウザーと異なり、ユーザーはほとんど直接目にしないものであり、またLinuxが機能的にWindowsをはるかに越えているというわけでもないので、インターネットが世の中に与えたインパクトに比べればはるかに小さなものであるが、しかし、オープンであり、無料であるということ、そしてマイクロソフトに対抗しようとする勢力がLinuxを積極的にサポートしようとする姿勢を示しているので、今のところLinuxにひとつの勢い(momentum)が感じられる。この勢いが持続すれば、マイクロソフトに対する脅威となり得る気がする。

しかし、そのためには次のような状況が起こらなくてはならない。
●続々とLinux上で動くアプリケーション・ソフトウェアが開発され、出荷される
●Linuxに互換性のない異なるバージョンが複数メーカーから出現しない
●大手メーカーが次々とLinuxをサポートする
●インターネットにおけるIETF (Internet Engineering Task Force) のような組織がLinuxの標準化をコントロールし、さらに機能を付加して発展させる
●機能的にWindowsに負けない、さらには越える
●パフォーマンス的にWindowsに負けない、さらには越える
●Linux用のツールが次々と開発される

Linuxの現状を考えると、今のところ本流のソフトウェアとなるかどうかは、これからの市場の動きを見て判断していく必要がある。ユーザー企業は、しばらくこの“様子見”戦術で十分であろう。しかしメーカーは、そうはいかない。Linuxが大きな勢力になってからぼちぼち開発を始めたのでは、とても間にあわない。Linux Worldでの日本企業は、富士通が小さなブースを構えていただけであると記憶している。メーカーとしては米国での状況をもう少し深く分析し、早い時期に“Linux戦略”を構築する必要がある。

(9/1/99)


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