新しいApple TVは出たけれど

9月1日、Appleが秋の新製品発表イベントをサンフランシスコで実施した。今回は、年末商戦に向けてということで、iPodの新しいバージョンの発表も取りざたされていたが、事前に最も注目されていたのは、新しいApple TVについての発表だ。

檀上に登場したCEOのSteve Jobs氏は、まず世界でApple Storeが300になった話から始め、次にAppleの携帯端末に共通に使われているOSであるiOSの実績(すでに1.2億端末を出荷)、新しい機能としてHigh Dynamic Rage Photo、Game Center などを紹介した。次にiPodのラインアップの一新。中でもiPod Touchは、6月に発表されたiPhone 4と電話機能を除いてほぼ同じ機能を持つようになった。

続いてiTunesの話では、音楽に特化しているとは言うものの、Social Networking機能を加え、FacebookやTwitterとiTunesが一緒になったようなもの、という言い方で、Pingという新しい機能を発表した。これは、ある意味、AppleのSNS市場への参入ということで、今後が注目される。

そして、いよいよクライマックスが近づき、Jobs氏得意の「One More Thing」(もう一つ)が出てきた。予想通り、第2世代Apple TVの発表だ。Jobs氏の説明は、Apple TVは4年前に発売されて以来、使っているユーザーには喜ばれているが、大きなヒットにはなっていない、というところから始まった。そして、第2世代Apple TVを作るに当たって、ユーザーや見込みユーザーに、これまでのApple TVの何が問題か、何が必要かを聞き、それに答えたのが今回の発表だ、と続けた。

確かに新しいApple TVを見ると、これまでのものに比べ、価格は下がり($229から$99に変更)、大きさも1/4ほどになり、すべてHDに対応、ユーザーがストレージ管理をしなくて済むように、コンテンツは買取からすべてレンタルに変更し、その価格も下がっている。テレビ番組もABCとFoxのものを見ることができる。そういう意味では、いろいろな改善があったと言える。

しかし、これはあくまで「改善」の範囲であり、人々が期待していた、全く新しい、新製品であるかのようなApple TVではなかった。今回の発表会のしばらく前、Jobs氏は、テレビとインターネットの融合について、いろいろな製品が各メーカーからばらばらに売られており、家の中はたくさんの製品がそれぞれのリモート・コントロールを持ち、複雑につなげられていて、ユーザーには使いにくく、わかりにくくなっている。これを解決するには、一から全体を共通のユーザー・インターフェースでデザインしたものが必要だ。しかし、そのようなものは、いま世の中に存在しない、という趣旨の話をしていた。そのため、一からデザインしなおしたような、全く新しいApple TVが、名前もiTVとなって登場するのではないか、という期待が高まっていた。しかし、ふたを開けてみると、残念ながら今回の発表は、そこまで革新的なものではなかった。しいて言えば、Apple TVとiPad、iPhone等の連携、使い易いユーザーインターフェースあたりがAppleらしいところだろうか。

テレビとインターネットの融合分野は、ここ1-2年大きな話題だ。パソコンとテレビをつなげるデバイスもいくつも出ているし、セットトップ・ボックスや、ゲーム機、テレビそのものにもインターネット接続機能が付き、インターネットのビデオ・コンテンツが、契約先の範囲で、テレビで見ることができる。6月末にはHuluが有料のHulu Plusを発表し、Huluの持つたくさんのテレビ番組等のコンテンツが、テレビやiPad、iPhoneなどで見られるようになった。さらにこの5月、競合先のGoogleは、Sony、Intel等とのパートナーシップでGoogle TVをこの秋にも出すと言われている。それに対抗するものをAppleが今回は出すのだろうと期待していたのだが、残念ながらそこまではいかなかったようだ。

今の状況では、この新しいApple TVが急にホットな製品としてたくさん売れる、という構図は見えてこない。新聞報道によると、テレビ番組供給で合意したABCとFoxも、暫定的に提供するという話で、今後引き続き提供するかどうかは不透明だ。他の大手テレビ局は様子見で、まだどうなるかわからない。これでは、消費者も飛びつきにくい。

テレビ番組のインターネット配信については、米国では各テレビ局がもう4-5年前からやっていることではあるが、既存のテレビ放送の権益が大きいため、新たな配信チャネル、特にテレビ画面に出すものについては、テレビ局、コンテンツ保持者等が用心しながら行っている。そのため、Apple TVだけでなく、Google TVについても、コンテンツ側との契約がなかなか進んでいない、といううわさだ。

AppleはiPodとiTunesで音楽の世界を大きく変えた。しかしこれは、コンテンツ側にとっては、ビジネスの一部をAppleにもっていかれてしまう結果となった。また、これまでCDで売っていた場合は、「アルバム」という形で曲をまとめて買ってもらっていたものが、iTunesでは曲ごとのバラ売りになっているため、結果として、業界全体で売上が下がっている。このようなことから、AppleやGoogleに対してのコンテンツ業界の警戒感は強い。

1月のiPad発表のときも、Appleはもっと多くのコンテンツ配信契約を事前に行いたかったようだが、業界が警戒したため、それが十分に実現しないままの発表となった。そのため、iPadが大きなヒットになるかどうかについては、疑問の声も多かったが、実際はApple人気が先行し、iPadは予想を超えて好調に売れている。その結果、今度はコンテンツ側がiPadへのコンテンツ配信に熱心になるという、好循環を産んでいる。

今回の第2世代Apple TVも、残念ながらコンテンツ配信契約は不十分なままの見切り発車だ。はたして第2世代Apple TVがiPadのときのように、Apple人気で売れることになるのか、消費者の動きに注目したい。

(10/01/2010)


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