AppleのiPhoneでひと儲けする起業家たち

AppleのiPhoneでひと儲けする起業家が、ここのところたくさん出てきている。正確に言うと、iPhoneおよびiPod Touchで儲ける起業家たちだ。iPhoneは3000万台、iPod Touchは2000万台すでに売れており、これらで使えるアプリケーション・ソフトウェアは10万を越えている。このiPhoneとiPod Touchで動くアプリケーションを開発してひと儲けしているのが、これらの起業家たちだ。

30年ほど前にパソコンが世の中に出てきたとき、やはり同じようなことが起こった。このときはMicrosoftのOS、今で言うWindows上で動くアプリケーションを開発する会社がたくさん現われ、これによってMicrosoftはパソコン業界で不動の地位を固めるとともに、これらのアプリケーションを開発したベンチャー企業もひと儲けすることができた。同様のことは、ゲーム機の世界でも起こった。

今回のiPhone、iPod Touchでひとつ大きく違うのは、スマートフォンという、個人が比較的簡単なものにも使うものだということだ。そのため、アプリケーション・ソフトウェアも必ずしも複雑なものばかりではなく、比較的簡単なものも多い。ゲーム機などでは、高機能化にともない、新しいゲームの開発には厖大な時間と費用がかかるが、それとは大きく異なる。つまり、だれても比較的簡単に、それほどの時間と費用をかけずに開発出来てしまうのが、iPhoneやiPod Touchで使われる多くのアプリケーションだ。実際、多くのものが無料で広告費で収入を得たり、有料のものでも数ドル程度のものが多い。したがって、買う側も比較的簡単に買うことができる。

このようなことがiPhone、iPod Touchで起こった背景には、もちろんAppleの努力がある。ひとつには、Appleが、iPhone App Storeというウェブサイトを作り、ユーザーが簡単にアプリケーションを見つけ、ダウンロードして使えるようにしたことだ。もっとも見つけ易さについては、アプリケーションの数が10万にもなっている現在では、それほど簡単とは言えないかもしれない。

そして、Appleはソフトウェア開発者がアプリケーションを開発しやすいように、また、開発したくなるような仕掛けもしっかり作っている。その一つは、もちろんソフトウェアを開発しやすいように、そのインターフェースを公開するとともに、開発者向けの教育等をしっかり行っていることだ。Appleのサイトに行くと、iPhoneのためのソフトウェア開発についてのビデオがあり、まずその概要を知ることができる。また、開発のための使い易いツール、そしてアプリケーションが完成したときのアップロード等もしやすいよう、ツールがそろっている。Apple自身だけでなく、Stanford大学のコンピューター・サイエンスの授業として、AppleのエンジニアがiPhone開発コースを教えているもの(iPhone Application Programming)もある。しかも、その内容はウェブサイト(http://itunes.stanford.edu)から無料でダウンロード可能になっており、すでに100万人以上の人がその講義内容をダウンロードしたとのことだ。

さらに、開発者にとってもう一つ大きなメリットがある。それは、開発したアプリケーションによる売上の70%が自分の手元に入ることだ。これは、通常よりもかなり高い比率で開発者に収入が得られることを意味し、これが開発者にとっての大きなインセンティブになっている。そして、iPhone、iPod Touchあわせて5000万台という数も当然大きな魅力だ。たとえ1つのアプリケーションの価格が数ドルだったとしても、その売れる数が多ければ、当然大きな収入が期待できるからだ。

iPhone、iPod Touch用のアプリケーションは、比較的簡単なものもたくさんあるので、それらを開発する人たちの中には、フルタイムの仕事を別に持ちながら、半分趣味のような形で仲間とアプリケーションを開発する人たちも多い。そして、うまくヒットするアプリケーションができたら、勤めていた会社をやめ、ソフトウェア開発会社に専念する、というやり方だ。これはリスクが少なく、かつ大きく当てることも出来、面白いということで、こういう会社がどんどん出来ている。シリコンバレーを中心に、何百、あるいはそれ以上出来ているようだ。

このような会社が開発するアプリケーションのジャンルはさまざまだが、その一つにゲームがある。すでに多くのゲームがiPhone、iPod Touch用に開発されており、今後Nintendo DS、Sony PSP等の携帯ゲーム機の脅威になるのではないかとの予測もある。ただ、この議論には少々疑問を感じる。

昔パソコンが高度化し、パソコン上でいろいろなゲームが使えるようになったとき、Nintendoなどのゲーム専用機は、これからすたれるのではないかと言われたことがあり、私もどちらかというとそのように思ったときがあった。そんなとき、Sonyは最初のPlay Stationを発売したので、その売れ行きを見守っていたが、私や一部の人達の予想に反し、Play Stationは大成功をおさめ、その後MicrosoftもXboxでゲーム機市場に参入するなど、ゲーム専用機市場は、すたれるどころか、さらに大きな発展を遂げた。

私はゲームをやらないのでよくわらなかったが、やはりゲーム機にはゲーム機でしかできないことがあり、パソコンという汎用的な機器ではついていけないものがあったようだ。何事も実際にユーザーになってみないとわからないことはある、ということを感じたものだった。そういう意味で、iPhone、iPod Touch上のゲームで、たとえば、大人向けの知能/知識テスト的なものなど、Nintendo DSやSony PSPに対抗できるものも当然あるだろうが、きっとゲーム専用機でないと広まらないものも多いのではないか、というのが私の見方だ。

スマートフォンでは、iPhone対抗として既にMicrosoftのWindows Mobile OSとそれを使った端末類、GoogleのAndroid OSとそれを使ったDroid等の端末類があり、彼らもAppleの成功を見て、自分達のOS上にアプリケーションを開発してもらうよう働きかけている。しかし、少なくとも現時点では、Appleがかなり先行しており、MicrosoftやGoogleがこの状況を覆すのは、簡単ではない。

いづれにしても、このような状況は、ソフトウェア開発者にとって、起業家となる大きなチャンスと言える。もしあなたがソフトウェア開発者だったら、まずは今の仕事を続けながら、iPhone、iPod Touch用に何かアプリケーションを開発して、世の中に出してみるのも一つの手ではないだろうか。思わぬ成功がそこに待っているかもしれない。

(11/01/2009)


メディア通信トップページに戻る