エレクトロニック・コマース(その3)


一昨年、昨年と11月にはエレクトロニック・コマースについてこのコラムで書いたので、今年もエレクトロニック・コマース(その3)ということで、この2年間の変化を見てみたい。

2年前、米国ではエレクトロニック・コマースが一番ホットな話題であった。しかしまた、このエレクトロニック・コマースの動きに対し、エレクトロニック・コマースは爆発的に広がっていると見る見方と、逆にエレクトロニック・コマースはメディアが騒いでいるだけで、実際はほとんど実施されておらず、インターネット上のエレクトロニック・コマースは単なるまぼろしか業者の希望的観測に過ぎないと言う2つの別れた見方もされていた。

この時点での私の意見(詳しくは1995年11月のレポートをご参照下さい)は、どちらの意見もちょっと極端過ぎる見方であること、今日(2年前)の時点ではまだ市場が十分に発展していないものの、近い将来はかなり大きな発展をとげると予想されること、ただし、その発展にはある程度時間がかかる事も承知しておく必要があること、などを論じた。この当時は、こんなものをインターネット上で買えるようになったとか、こんな会社がインターネット上にショッピング・モールを作った、といった話が話題となっていた頃である。

1年前のレポート(詳しくは1996年11月のレポートをご参照下さい)では、1995年の私の予想どおり、エレクトロニック・コマースは爆発的な広がりは見せなかったが、当初問題点として指摘した、セキュリティや小額支払い等の技術的な問題も、時間がかかりながらも解決策が見い出されつつあり、インターネット利用者の片寄り(当初25-35才の男性に集中)の問題も、少しずつ広がりを見せてきたことを報告した。

しかし、問題解決もその途上にあり、まだまだすべての問題の解決、そしてエレクトロニック・コマースが本格的に発展するには時間がかかり、何をもって広く普及したというかにもよるが、まだあと3年前後はかかるだろうと私は結論づけた。ただし、エレクトロニック・コマースの発展は、売られる商品によって、その普及が他よりも早いものも出てくるとも指摘した。同時にまた、一般消費者向けのエレクトロニック・コマースはこのような状況でも、企業対企業の電子取引はもう少し早く普及するであろうとも述べた。

さて、1997年11月現在の状況はどうであろうか? エレクトロニック・コマースはまず一般消費者向けよりも企業間の取引への利用が先行しているという状況がある。これは、1年前にも指摘したとおり、企業間の電子取引では、インターネット・ユーザー層の片寄り、インターネットの家庭への不十分な普及、人々の新しいものに対する漠然とした不安、等の問題点が存在しない(あるいは極めて小さい)ことが大きな理由として挙げられる。

企業によるインターネット利用の発展をみると、外部とのコミュニケーション(会社の概要、製品情報等のインターネットでの提供、電子メール)というところから入り、社内での利用による効率向上のためのイントラネットの構築、そして、今度はそれを発展させたエクストラネット、外部との電子商取引という流れになっている。社内のイントラネット構築を一通り終えた企業は、今、エクストラネット、そして企業間エレクトロニック・コマースへと駒を進めている。したがって、今後1-2年で、この流れはさらに加速していくであろう。

一般消費者向けのエレクトロニック・コマースも、動きはあまり早いとはいえないが、いくつかの変化がみられる。以前にも指摘したように、人はインターネット経由で買ったほうが得(または楽しい)にならないと、仮にインターネット上での商品購入に何の技術的な問題がなくても、わざわざインターネットで物を買わない。つまり、エレクトロニック・コマース向けの商品、エレクトロニック・コマース向けの売り方というものがあるわけである。この2年で、そのような商品がいくつか見つかってきた。

まず、コンピューターのハードウェア、ソフトウェアが挙げられる。製品のモデル番号がわかれば、どこで買っても同じものであるから、価格が安いほうがよいという点(サポート・サービスが問題となる場合は別だが)、またソフトウェアでは、買ったその場でそのソフトウェアがダウンロードしてすぐに使え、お店まで買いに行ったり、通信販売で買って、送ってくるのを待つ時間が省けるというメリットがある。また、お店まで行って品切れなどという心配もない。コンピューターのハードウェア、ソフトウェアについては、購買者層も、コンピューター・ユーザーということで、エレクトロニック・コマースに対するアレルギーも少なく、これらはここ1年というよりも、エレクトロニック・コマースが始まった頃から順調に発展してきている。

これに加え、ここ1年で目立った発展を遂げているものとして、トラベル関連チケット販売、スポーツや演劇等のイベント・チケット販売、書籍(中でも洋書)販売などがあげられある。トラベル関連では、旅行代理店のビジネスがインターネットの発展により、大きく変化していくだろうという事は、すでに2年半前に拙著“インターネット・ワールド”(1995年、丸善ライブラリー)で指摘したが、いよいよその時が近ずいてきていることを示している。インターネット経由でのチケット販売を売り物にする旅行代理店が次々と登場して、既存の旅行代理店のビジネスを脅かしているだけでなく、航空会社も、このような顧客との直接取引を視野に、旅行代理店への手数料率削減に走るなど、旅行代理店ビジネスは、いよいよ新しい時代への対応をせまられている。

これらは、いずれもインターネットでの取引のほうが、今までのお店に行ってチケットや書籍を購入したり、電話で購入する方法より、早い、安い、自分で好きなものを選べる、品数がそろっている、などのメリットがあるから、このように発展してきている。これからも、インターネットの利用者層の広がりに合わせ、またインターネットのメリットを引き出す売り方をする企業、業種が、さらにエレクトロニック・コマースを発展させていくことであろう。

以前もネットワーク・コンピューターについて書いたときに、マイクロソフトのビル・ゲイツ会長が、あるところでのスピーチで“世の中というものは何か新しいものが出ると、2年先の変化については大げさに騒ぎすぎ、現実はそこまでなかなか追い付かないが、逆にその新しいことによる10年先の変化には控えめに考え過ぎる”といっていたことを引用したが、エレクトロニック・コマースでも、まさにこれがあてはまるといえる。エレクトロニック・コマースは、この2年間で、当初騒がれていたほどの発展を成し遂げていない。しかし、あと8年、いやおそらくもっと短い期間のうちに、エレクトロニック・コマースの普及によって(すべてとは言わないが)多くのビジネスで従来の商売のやり方、商取引の仕方が大きく変っていくことは間違いないであろう。

インターネットに関連したものにはこの手のものが多い。以前から何度も書いているように、インターネットは単なる一過性のブームではなく、世の中を大きく変え、新たな本流となる技術、インフラストラクチャーである。エレクトロニック・コマースについても、1-2年で大きな変化が見られなかったからと言って、単なる一過性のブームで消え去ってしまうなどと、くれぐれも勘違いしないよう、注意願いたい。

(11/01/97)


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