チェルノブイリの医師の報告会
〜1997年5月11日 北沢タウンホール〜

ガリーナ・パナシューク医師 <ベラルーシ>

■ゴメリ州の3分の2が放射能に汚染

 ロシア、ウクライナと比べてもベラルーシは甲状腺ガンの発生率において第1位を占めています。チェルノブイリの事故当時、風はベラルーシの方向に吹いていました。非常に大量の放射能を含んだ雨雲がベラルーシの首都ミンスクの方向へとまっすぐ移動していきました。その結果として、とくにベラルーシのゴメリ州の3分の2が放射性ヨウ素によって汚染されてしまいました。ベラルーシ全体の小児甲状腺ガンのり患者数は508、ゴメリ州内では268となっています。

 私の診ている子どもの中には2回3回と手術を受けた子どもが多くいます。今回日本へやって来た子の中にも甲状腺ガンが肺に転移した子がいます。ご存じのように私たちの国は今、困難な経済状態にあります。検診を行う際の手袋なども足りません。子どもたちをミンスクに送り出す際にも、注射針などといったもの全てを自分で持参していかなくてはなりません。また時々母親がやってきてはこう言います。「私たちは手術を受けにミンスクへ行くことができない。」お金がないのです。両親の平均給与は25〜30ドルです。甲状腺のホルモン剤は3,4ドル、その他の薬も7ドルなど非常に高価な薬を使わなくてはなりません。

■汚染された食料を食べなければならない

 次に問題となりますのは食料品です。非常にたくさんの地域が汚染され、そこに多くの人が住み続けているため、多くの人が汚染された食料をとるより仕方ありません。私たちのところへ来る子どもたちには手術後、パホモヴァさんの基金へ行くように勧めていますが、基金自体も色々な問題を抱えています。この基金はある診療所の一室を借りて活動を行なっていますが、それに対しても多額の支払いをしなくてはなりません。ですから基金自体も子どもたちに汚染されていない食料を与えることまでするのは非常に難しい状況にあります。子どもたちには毎年の診断が必要です。一番大切なのは早期の診断であり、途切れることのない治療、それからまた栄養価の高い、ビタミンやミネラルの豊富な食べ物です。

タチアナ・パセチニク医師 <ウクライナ>

■医療機器も古く、薬・治療用具も不足

 現在ウクライナでは甲状腺の検診がすべての学校で行なわれており、こうした検診の結果、原発に最も近い地域では70パーセントの子どもが甲状腺の異常や病気を持っています。甲状腺の病気の子どもたちは、大体キエフ、ハリコフ、ドニエプロ・ペトロフスクにあるセンターで手術を受けています。これらのセンターは特別のセンターであるため、比較的よく機器が揃っており、医師たちの評判も良いセンターです。しかし、現在のウクライナの経済状況で政府から出されるお金は僅かで、医療機器も古くなり、薬も不足し、治療に必要なものが底をつく状況にあります。

 今後もずっと放射性ヨウ素による治療を受けなくてはならない子どもが沢山います。以前は、それをウズベキスタンから調達していましたが、質は良くなく、しかも遠くから運ぶ間にさらに劣化してしまいました。子どもたちが、ウクライナから国外へ治療を受けにいく機会はあまりありません。今では、西欧から調達することが少し出来るようになりましたが、こうした状況がこれからどれだけ続くか分かりません。

■甲状腺ガンの子どもたちの転移が心配

 もしかしたらある日、放射性ヨウ素がなくなって治療が出来なくなる恐れが十分あります。今、日本にきている子どもたちには皆、転移があります。

 その他に、国の地域が広すぎて、地方の医療設備が良くなく、薬も専門医も不十分で甲状腺ガンの診断がよくできない状況にあるという問題があります。それで発見が遅くなって手術が難しくなったり、障害の残る子が多いのです。例えばある子どもは甲状腺ばかりでなく、副甲状腺も悪くなっていることがあります。これは転移したか、手術の必要上から副甲状腺を切ったからです。こうした子の場合、甲状腺のホルモンだけでなく、毎日沢山の量のカルシウム剤も飲まなくてはなりません。ウクライナにはこうした薬はありませんので、病気の子どもの両親は外国からの援助に期待するよりほかありません。甲状腺以外にも血液や消化器系、精神病や糖尿病も大変増加しました。

 最近ウクライナの死亡率は高くなっています。何よりも子どもたちのことが気掛かりです。自分たちの将来を考えると本当に恐ろしいです。今も原子炉の近くに住み、そこで死んでいく人がいます。再びチェルノブイリが繰り返されることのないように願っています。


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