98年2月、チェルノブイリ被災地を訪問 / 広河隆一


■ 「チェルノブイリの家族の救援」で ■

[この団体は、原発のすぐそばにあるプリピャチから避難してきた人が中心になって活動しています。来日する“チェルボナ・カリーナ”の親団体です。]


代表バツーラさん、副代表ガリーナさん

 「家族の救援」は1994年8月に設立されました。当時の会員数は300人もありませんでした。今では8000人、その家族もあわせれば2万5千人の会員がいます。

 1990年「チェルノブイリの子どもたち」を結成したタチアナ・ルキナさんが全団体を一つにまとめました。その後彼女の子どもが発病したことなどで仕事が続けられなくなり、別の人がリーダーになりました。ガリーナさんは、このトロイシェナの代表をしていて、同じ地区のチェルノブイリ同盟代表だったバツーラさんを迎えて、全国的組織「家族の救援」を作ったのです。この会を支えているのは、ドイツの「SOS1986」と日本の「チェルノブイリ子ども基金」です。

 去年1年間で、海外に保養に行けた子は1800人。毎月1台のバスが出ます。休暇中はより多くの人が子どもを受け入れてくれるので、夏には毎月4台ずつ出ます。今年は33台のバスを用意する予定です。1台あたり45座席あります。そのほか日本の支援で、黒海沿岸にサナトリウム「南(ユージャンカ)」を運営しています。


チェルボナ・カリーナの音楽指導者 タマーラさんの話

 私はプリピャチで約120人の子どもたちに音楽を指導していました。ゆくゆくは300人くらいの大きなコーラス団を作るのが夢でした。

 事故のあった日、学校へ行くと、子どもたちが原発で事故があったと叫んでいました。学校から外へ出さないことになり、窓は閉めきられてとても暑かったです。子どもたちには薬などを配っていました。私はもらえませんでした。薬が足りなかったのでしょう。夜になって半錠だけもらったので息子にあげました。

 私の教室は涼しかったので、そこで授業をしました。そのあと文化会館で子どもたちのピアノの試験をしました。翌日には大丈夫になるのではないかと思いましたが、家に帰って部屋のほこりを払ったり掃除機をかけたりしました。開きっ放しにしてあった窓も閉めました。学校から帰った息子は外へ出しませんでした。10月には甲状腺に異常がみつかり、95年には私の甲状腺は全部摘出されてしまいました。手術後には本当に声が出なくなり、歌うこともとてもできませんでした。それでもトレーニングしてバス音域まで出るようになりました。カリーナの練習の時には、どうしても高い音を出さなければいけないこともあり、苦労しました。今でも高音を出すのは難しいときがあります。

 甲状腺の他にも目とか頭痛とか悪いところがいろいろあって、私は病気の花束と言っているのですが、この前も救急車で病院に運ばれました。それから記憶が悪くなったりしてきました。でも自分の人生を信じたいと思っています。子どもが大きくなるまでは。下の子が生れた88年は妊娠中で、甲状腺がどんどん拡大していたときです。息子は精神的な発達障害です。原発事故が直接影響したと思います。上の息子・ビタリーは事故のとき10歳でした。彼の体調も悪いです。

 チェルボナ・カリーナは7年前、学校のコンサートでアンサンブルとして出演したのがはじまりです。このコンサートを広河さんがご覧になっていますね。それまではただのコーラスグループでした。カリーナの特徴は、普通の子どもたちだということです。特別な才能を持った子はいません。聴覚、音楽感覚というのは、一般の子どもから養えるものだと私は考えています。子どもにやる気さえあれば、指導できるのです。

 チェルボナ・カリーナ(赤いカリーナの実)というのは多くの意味があります。ウクライナの文化伝統、民族の歌、美しさ、健康、「癒す」という意味もありました。

 手術を行なった医師の話:ナターシャの腫瘍摘出手術は大変な手術でした。腫瘍はもうほとんど全部取りましたが、取れないところは残してあります。肺にも転移があります。91年から93年ぐらいには、こういうのもありましたが、最近はなかったぐらい重症です。こういう子は、カルシウム不足になりがちなので、背骨が折れるようなことにも注意が必要です。

※今回、ナターシャには医薬品費用など200$の支援を行ないました。今後も「核の傷跡」を通じて支援を続けます。


 ほかにも、甲状腺ガンと白血病を併発している女の子にも会いました。定期検査用に、麻酔もなしに骨髄を摘出して、その痛みに必死にたえている姿は本当に痛々しかったです。この女の子にも薬代(300$)を支援しました。こういった甲状腺の病気に苦しむウクライナの子どもたちは、「チェルノブイリの核の傷跡」を通じて、これからも支援を続けていきます。次号では、その「核の傷跡」で中心になって働いているラリサさんの話などを報告したいと思います。


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