チェルノブイリ報告


 事故からまもなく17年を迎えようとしています。被曝した子どもたちの間に何が起きているのか、44回目のチェルノブイリを訪問した広河隆一のインタビューから現場の医師たちの声をご報告します。


エプシュテイン医師 (キエフ内分泌研究所所長)

■子ども基金のおかげでL-チロキシン(甲状腺手術後の子どもたちが必要とする薬。甲状腺ホルモン剤)、カルシウムを子どもたちに与えることができます。ウクライナ産のチロキシンは品質がよくないのです。100人の子どもたちが一月に2回ここでチロキシンを受け取っています。

■事故から15年〜20年経ったら甲状腺ガンが増加するというかつての予測が当たったのです。現在、内分泌研究所に約1000人の子どもたちが登録されていますが、事故後に生まれた13歳、14歳のケースもあります。

日本から送った医薬品は検診の結果に従って配られる

 

―放射性ヨウ素はないのに、なぜ事故後に生まれた子どもたちにも甲状腺ガンが増えているのでしょうか。

■ストロンチウムやセシウムの影響かもしれません。これらが直接甲状腺に影響を与えることはないのですが、甲状腺はいろいろな影響を受けやすい器官です。半減期の長い放射性ヨウ素が存在しているのかもしれません。

■事故から16年以上経ちましたが、ウクライナ全体が汚染されています。爆発当初は7つの地区が汚染されたとされたものが、数カ月後には89の地区が汚染されたと報告されています。2002年ごろから、甲状腺ガンの発生の年齢層が低くなっています。85年〜86年生まれの子どもたちの間にガンが多発しています。早期の診断により、肺への転移は減っています。

■去年2002年だけで新たに194人の子どもが甲状腺手術を受けました。84年〜86年生まれの、今17歳から18歳の子どもたちです。

■今日手術を受けた18歳の女の子は、親が亡くし、祖母と暮らしていました。自分でしこりを見つけて手術を受けにきました。

*キエフ内分泌研究所…ウクライナで甲状腺手術を受ける子どもたちの多くが必要とする医薬品を子ども基金が支援しています。

 

バヤルスカヤ医師 (放射線医療センター小児内分泌医療センター長)

■昨年551人の子どもの検査と治療を行ないました。そのうち甲状腺の病気の子どもは301人でした。甲状腺ガンの子どもは10人です。成長異常は30人、糖尿病は18人、生殖器異常25人。「子ども」とは18歳未満を指します。

■生殖器異常の子どものとして私たちが知っている例をお話します。ある12歳の男の子が診断を受けたところ、睾丸がありませんでした。子だくさんの家族で、母親も気づかなかったようです。私たちの医療チームが学校などで定期的に検診に行き、発見できたのです。また、ある両性具有の16歳の男の子は1年前に初めてこの病院に来て手術しました。1回の手術では治らず、数回必要でした。完治したわけではないのですが、前と比べてよくなりました。本人は自殺するほど思いつめていましたが、精神的にも回復しました。放射能との因果関係はわかりませんが、事故前や事故直後にはこのような例は多くはありませんでした。この子どもの父親はリクビダートル(事故処理作業者)で、当時母親は妊婦でした。1988年に父親は脳腫瘍でした。高濃度汚染地域に住んでいます。小さい頃から治療を続ければいいのですが、治療のできるキエフからは遠いのです。また、こういう病気は家族も隠したがり、特に田舎ではその傾向がひどいようです。

放射線医療センター小児病棟。2001年にリハビリ器具を支援

 

■甲状腺ガンだと事故後の増加が明確ですが、こういう生殖器異常の分野については不明確です。被曝が子どもの健康に悪いのは確かなことです。例えば検査によって甲状腺の慢性異常と診断された時、検査していくにつれ病名が増えていきます。一人の子どもが複数の病気を抱えています。

―今困っていること、支援が必要なことは?

■ロブノ州への検診のための費用です。この地域はヨウ素が不足しており、放射性物質にも汚染されています。子どもたちにも悪い状況です。8年間定期的にこの州に検診に行っていたのですが、資金不足のためここ2年あまり行くことができません。ここの生活は厳しく、学校では暖房もなく窓も割れていて、子どもたちはコートを着たまま授業を受けていました。甲状腺の異常が多かったです。

 

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