事故から20年 48回目のチェルノブイリ訪問

報告:広河隆一


2006年2月、48回目のチェルノブイリを訪れた、チェルノブイリ子ども基金顧問の広河隆一さんが現地の様子を報告します。

チェルボナ・カリーナ
現在40人ぐらいの子どもたちがグループにいる。日本に来たことのあるペーチャなどみんな驚くほど背が伸びていた。高校生になって勉強が大変だ、と言っていた。日本に来たときは年長だった少女たちが母親になった人も何人かいる。同じく年長だった、ベロニカたちは、7人で新しいグループを作って活動している。CDを作る予定とか、ドイツに公演の予定とかがあるが、制作費や交通費で苦労している。日本にきたときのビデオを見せたら大喜びだった。ナターシャ・グジーの甥にあたる子どもが新たなチェルボナ・カリーナのスターになっているようだ。


チェルボナ・カリーナの練習風景

キエフ・内分泌研究所
病院を訪問しているとき、チェルボナ・カリーナにいた子で、甲状腺の手術を行なっているのだが、妊娠して、相談に来ていた。エプシュタイン医師は産みなさい、と答えていた。以前日本から支援してもらったお金で購入したガンマ線の検査機械が故障し、IAEAに援助を要請したが断られた。


甲状腺手術前の女性たち

避難民調査
「チェルノブイリ子ども基金」は、事故の8年後(93年、94年)に避難民のアンケート調査を行った。それから12年、あのとき回答してくれた避難民を捜し当て、ベラルーシ、ウクライナ合わせて、今回約1000人の回答を得た。そのうちウクライナのプリピャチ市避難民からの回答の一部を紹介する。


現在の健康状態について回答した398人中、特に問題なしと答えた人は54人。何らかの病気を抱えていると答えた人は325人だった。さらにこの10年の間に死亡した人は19人いる。実に86%が病気なるか死亡していたのだ。

この病気だと答えた325人に「現在の病気はチェルノブイリ事故の結果だと思うか」と質問したら、そう思うと答えた人は304人に上った。93%である。

現在抱えている症状としては、頭痛143人、心臓の痛み47人、体の衰え68人、関節痛71人、高血圧54人、胃の痛み22人、背骨の痛み20人、めまい17人、肝臓の病気15人、甲状腺関係の病気(甲状腺がんを含む)15人、視力の低下16人、十二指腸潰瘍10人という答えだった。

一人で脳疾患、白血球減少症、体中の痛み、甲状腺の異常、心臓の痛み、頭痛などを訴えている人もいる。                


しかし人々が健康の不安を訴えても、トップの医学者たちは口を濁す。ベラルーシでは被害を訴えることは国家の利害にかかわることとして、逮捕もありうるという。ウクライナでは選挙でチェルノブイリ被災者支援を打ち出したのは一党だけだ。

ウクライナの「国際団体 チェルノブイリの医者たちの代表 アングリーナ・ニャーグ」は、2005年9月にIAEA のチェルノブイリ事故・被曝死者4000人という報告に反論したから読んでほしい、と新聞を渡された。


20年前の事故処理の時に使われた車・ヘリコプターなどの廃棄場

 <ニャーグの意見;要約>

チェルノブイリ事故の結果の正確な評価が必要

2005年9月、国連のIAEAのフォーラムがあった。「チェルノブイリ事故は健康に深刻な影響を与えた。原発付近に住んでいた人と、発電所のスタッフへ深刻な健康障害があった」と報告があったが、避難民の健康は問題になっていなかった。「一般の国民への影響や健康状態、放射能による影響の被害は深刻ではない」という。

フォーラムで一番強調されていたのは「リクビダートルの健康回復と研究が必要」ということだった。けれども、避難民の健康は問題になっていなかった。避難民の健康状態や人々の浴びた放射能量を計るプロジェクトが一つも行なわれていない。

事故の規模については(これまでも)意図的に少なめに言われてきた。今回もそうだった。(20年間続いている問題であるにもかかわらず)たとえば、ウクライナでは2004年中に、事故当時子どもだった人で甲状腺手術をした人数は3770人。その他の病気、白血病ほかの問題などは、現在まで解決されていない。また、遺伝子の問題は何一つ論じられていない。これらは、IAEAの研究者にとっては深刻な問題ではないのだ。2003年ウクライナではチェルノブイリ事故の被害児童に関する国際会議が行なわれ、たくさんの報告や資料が出されたが、その結論は2005年のIAEAの会議には反映されなかった。

放射能を浴びた国民の健康状態を調べるために3国(ロシア、ウクライナ、ベラルーシ)で検査が行なわれる予定であったが、実施されなかった。そのため20年たった今も、世界が放射能の影響について誰一人正確な答えを知らない。もしかして誰も知りたくなかったのかもしれない。

一番大事なのは子どもの問題だ。健康面だけでなく、精神面への悪影響を考えなければならない。

(「ポスト・チェルノブイリ」2005年10月No.10)


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