09月01日(水)[あらあらあら、もう9月。投票まで2ヶ月。]

昨夜の抗議行動の逮捕者は1187人にも達したとか。共和党大会は3日目。今日のハイライト・シーンは、チェイニー副大統領の演説だ。けさのUSAトゥデー紙は特派記者マイケル・ムーアのコラムが掲載されている。やはりムーアは元気だ。転んでもタダでは起きないタイプ。マケインに真っ向から反論を加えている。確かにムーアにしてみれば、映画を見てもいないうちから、「嘘つき(disingenuous filmmaker)」呼ばわりされたんだから。そしてマケインに呼びかけている。ブッシュ氏と2000年の指名争いをした時に、ブッシュ陣営からどんなデマを流されたかを思い出せ、と。バングラデシュから養子をもらって育てていることについて、マケインには「黒い赤ん坊(Black Baby)」がいると中傷されたことなどを挙げていた。さて、午後10時過ぎにチェイニー副大統領が登場したが、その直前のジョージア州選出のジル・ミラーの基調演説が会場でとても受けていた。民主党にしてみれば「裏切り者」である。彼は1992年のクリントン大統領選出の際には、民主党大会で基調演説を行った人物である。ミラーの表情をみていて、「行っちゃっている」オヤジという印象を強く持った。解放軍である我々の軍を占領軍などと言っている輩がいる!などとフラストレーションを丸出しにしていた。
種村季弘の訃報を知る。澁澤龍彦の時代は過ぎ去っていく。


09月02日(木)[ブッシュ大統領を熱烈支持する人々の渦のなかで]

うんざりするほどの長丁場の共和党大会も今日で終わりだ。そして、そのハイライト・シーンは、ブッシュ大統領の指名受諾演説だ。警備上の理由から、午後9時以降、大統領夫妻が会場を退出するまでの間は、会場のマジソン・スクエア・ガーデンへの出入りは一切Shut Downされるので「会場内で取材する人は早めに現場に出向いてください」とのアナウンスが、昼間からCBSメディアセンター内で再三流れていた。それが夜になって「午後8時前には現場にいた方がいい、すでにセキュリティ・チェック地点には行列が出来ている」とのアナウンス。それを合図に、にわかに慌ただしくなった。会場フロア取材には特別のパスが必要なので、それを持って大統領演説を2時間以上、Mカメラマンとともに待ち続ける羽目になる。それにしても会場フロアの熱気は相当のものだ。共和党のVIP席と演壇のあいだのひどく混み合っている空間、ちょうど全員がカウボーイハットをかぶったテキサスの代議員団席の真後ろ、ノースダコタ代議員団席あたりに運良く陣取ることができたけれども、ずうっと立ちっぱなし。ブッシュ熱烈支持の人々の真ん真ん中にいることになる。ノースダコタのおばさんやおっさんたちが、ポーッとした表情で後ろを振り返り、貴賓席のローラ夫人やパパ・ブッシュ夫妻、それ以外のVIPたちを眺めている。目がいっちゃっている。やんごとなき人々を見上げる目だ。ブッシュ演説は予定を大幅に超過して1時間以上に及んだ。それというのも、途中何度も拍手・喝采で間が出来たからだ。何しろ9・11なのである。ブッシュ演説のメッセージのエッセンスは要するに「9・11を忘れるな」「あの時からUSAが再起したのは自分のような強いリーダーがいたからじゃないか」「ケリーみたいな優柔不断なヤツにこの偉大なUSAを託していいのか?」というものだ。自分の回りの人がみんな総立ちで「USA!USA!USA!」と絶叫し「4 More Years!4 More Years!」をがなりたて、目に涙さえ浮かべているのをまともに見させられて、恐怖感に近いものを感じた。それは何と言ったらいいのか、<他者>という観念が一切存在しない白色の恐ろしさである。途中、抗議グループのメンバーが何か叫んだらしいが、すぐにつまみ出され、まわりの人々がそれを大歓声でかき消す。「4 More Years!4 More Years!」。「より安全な世界、より希望に満ちたアメリカ」が演説のテーマだという。胃液が多量に分泌されるような違和感を感じるその言葉。「より安全な世界」の実現?夜のニュース用に会場フロアでリポートを収録し、メディア・センターに戻って、素材を編集して東京に伝送し、撤収作業。「より安全な世界」の実現?それから数時間後に、ロシアの学校占拠事件で特殊部隊が強行突入。「より安全な世界」の実現?きのうのNYタイムスの1面には、イスラエルで起きたバス爆破事件のショッキングな写真が掲載されていた。破壊されたバスの窓から乗客の遺体がぶらさがっている。「より安全な世界」の実現?世界の中心でUSA!を叫ぶ人々の姿をみせつけられて、11月の大統領選挙の結果がどうなるのか、興味がより一層ましてきた。


09月03日(金)[イヌをめぐるあれこれ]

共和党大会が終わって、NYの街は普段の活気を取り戻したようにみえる。人がたくさん繰り出している。これでこそNYってものだ。お天気もいい。CNNの選挙解説者によると、ブッシュ大統領が大会で得たBounce(勢い)は非常に大きい、とのこと。メディア・ショウとしての出来は、今回の共和党大会の方が民主党大会より「ダサいけれども、分かりやすい」という感じだろうか。そうしたなかで、会場内で上映されたあるビデオが記憶に残っている。それは、ホワイトハウスのスタッフが登場するビデオなのだが、何と表現したらいいのか、唾棄すべき低品質ぶり、あまりの笑えなさに呆れ果てたのだ。カール・ローブ、アンドリュー・カード、カレン・ヒューズと言ったブッシュ大統領の個人的アドバイザー連が登場する。主役はブッシュ大統領の愛犬バーニーなのだ。このイヌが、前述のカールローブらと共にホワイトハウスで執務に励んでいるという、他愛もない内容のビデオなのだが、腹立たしいほどに、ユーモアのセンスというものが皆無なのだった。イヌはご主人様に忠実に仕えるペットの代表だ。そういう意味ではブラックユーモアだけれど。そう言えば共和党大会のセキュリティ・チェック地点には、VTRカメラを嗅ぎ回る警備犬シェパードがいた。警察も警備犬を使っていた。僕らのカメラマンは警備犬のチェックを受けて初めて会場内に入れたというわけだ。以前、作家の辺見庸さんと共に、陥落直後のアフガニスタン・カブール空港に飛行機で降り立った時のことだ。空港には重装備の米軍兵士と警備犬が待っていて、僕らの荷物と取材機材を嗅ぎ回った。軍は人間よりもイヌを信用している。そんなことを思い出した。イラクのアブグレイブ刑務所で行われたイラク人に対する虐待事件でも、軍用犬が大きな役割を果たしていた。もちろんアメリカ軍はイラク人よりも軍用犬を信用している。イヌは裏切らない。イヌはさからわない。メディアの役割は、市民のためのWatch Dog(監視のための犬)であるべきで、権力者の警備犬(Guard Dog/Army Dog)であってはならない。そういう説教を垂れてくれた僕の諸先輩はもう大半が亡くなってしまった。


09月04日(土)[本当のベトナム戦争の話をしよう]

共和党大会の取材のNYからDCに戻る。アメリカのネットワークのメインの記者のなかには、次のネタ=フロリダに接近中のハリケーン・フランシスの取材のためにNYからマイアミにまっすぐに飛んでいった者もいる。ブッシュ大統領=共和党は、大会を通じて、この選挙の争点の中心に国家安全保障を据えたことは明らかだ。対するケリー候補は、ベトナム戦争の英雄というイメージをセールスポイントにしようとしたが、共和党側のネガティブ・キャンペーンにあい、ダメージを被った。ケリー氏は明らかに一時、反戦運動に転じていたからだ。そして、そのことを打ち消すかのように「戦争の英雄」という側面だけを強調しようとした。ベトナム戦争で戦場経験の後に「反戦」を唱えたことは誤りか?本当のベトナム戦争の話をすることは誤りなのか?ベトナム戦争世代の作家ティム・オブライエンの作品に『本当の戦争の話をしよう』という短編集がある。戦争が、民主主義をもたらすだの、独裁者から国民を解放してやるだのといったキレイ事とは全く別の顔を持っていることをよく描いていた。むしろ僕らの人生って何なのかという普遍的な思考にまで届いている作品と言ってもいい。最終章の「死者の生命」のくだりでは不覚にも涙を催した記憶がある。ともあれベトナム戦争世代の「戦争とは何だったのか」を自省する作品であることは間違いない。アメリカにはこのような「自省」が確かに存在していたのだ。共和党大会のフロアにいた人たちのような人ばかりではない。これらの人々は今のアメリカの人々の動向をどう考えているのか。ケリー氏のいわば「転向」をどう考えているのか。機会があれば、ティム・オブライエンから話を聞いてみたい。
それにしても、ロシアの学校占拠事件の結末はヒドすぎる。特殊部隊側に作戦上の欠陥があったことは明白だろう。あのような悲劇的な結末がすべてを語っているのだ。国民は、どのような指導者をいただくかで、みずからの同胞の被る運命を決定づける。そのような当たり前の事実に気付かされる。


09月05日(日)[ラルフ・ネーダーの「正論」が潰える時]

今朝のワシントンポストにラルフ・ネーダーが寄稿している。民主党が自分の選挙キャンペーンを「汚い手」(Dirty Tricks)で妨害していると。その攻撃の矛先は完全に民主党のケリー陣営に向かっているのだ。どうやらケリー陣営にとっては最悪の展開になってきたようだ。ラルフ・ネーダーの言っていることは、「言説の空間」においては全くの「正論」である。アメリカ国民にとって、2大政党制の枠組みの中だけで、選択肢が2つしかないという状況は本当はよろしくない。独立系の候補者にもチャンスが与えられるべきである。そのように望んでいる人々も少しはいる筈だ。反戦の主張ではネーダーは一貫している。各種の世論調査でも2%〜5%ほどの人々はネーダーを支持している。2000年の選挙や今年のように大接戦の様相を帯びてくると、このネーダー票が生死を決する要素にもなる。ケリー陣営にしてみれば、のどから手が出るほど欲しい票だろう。しかし、だからといって、独立候補の登場をあらかじめ排除してはならない。ネーダーの言い分は原則的に正しい。大接戦でゴア候補が敗北した民主党のネーダーへの2000年の恨みは簡単には消えていないだろうが、ネーダーを追い落とすのはよくない。なぜならば、ケリーの本当の相手はブッシュ大統領だから。ネーダーの方も意地になっているようだ。これでは絶対に降りないだろう。こういう状況がこれ以上過熱化するとどうなるか?いうまでもなく、ブッシュ大統領の再選にとても有利になる。再選されればあと4年の任期、つまり、2008年までブッシュ政権が続くことになる。その年2008年に世界地図はどうなっているんだろう?そしてその2008年にラルフ・ネーダーはどこで何を言っているんだろう。その時になって「正論」は潰えていないのだろうか?「言説の空間」は、この無限大の現実の一部にしかすぎないのに。


09月06日(月)[ロシア学校占拠事件の基礎情報の欠如]

半数以上が子供たちという遺体が埋葬されようとして、家族らが泣き崩れている映像は、こちらのCNNでも何度も流れた。そのあまりに残酷な結末に接して、軽々なことは言うまい。アルカイダと武装勢力が「共同で起こした可能性が濃厚になっている」(日本の某新聞)だの、一体何を根拠にそんな記事を書いているのだろうか?タス通信とイズベスチャの一部を書き写しただけか?そのイズベスチャ紙の編集局長が解任されたという。政府からの強い圧力が働いたと、イギリスのBBCやガーディアンが報じている。イズベスチャの報道はあまりに感情的だと。イギリスのメディアの方がずっと信用できる。落ち着いて、確定している事実だけを整理してみようではないか?犯人グループは一体誰なのか?ロシア政府は外国人テロリストだのと盛んに煽っているが確たる証拠はない(さっそくイスラエルのシャロン首相は共闘のエールを送った。そしてハマスのキャンプを空爆し住民を殺した)。同じく、チェチェン独立勢力に結びつく確たる証拠も今のところはない。これは本当に事実を見極めなければならない大事な部分だ。ロシア政府は人質になっている人数についてウソをついていた(1000人以上の人質と何故言わなかったのか?)。ロシア政府は犯人グループと交渉をする方針を家族らに伝えていたがウソだった。強行突入は本当に偶発的なものなのか?子供らがあれほど多数死亡したのは、どちら側の銃撃によってなのか?それ以上に、屋根が崩落した下敷きになって死亡した子供らが多いのではないか?..........今度の事件ではそういう基礎的な情報が欠如しているのだ。これじゃあ社会主義ソビエトの時代よりヒドいじゃないか。大体が、「チェチェン」と一括りに呼んで、アルカイダ並のテロリスト呼ばわりするのは、ある少数民族全体をテロ民族と呼ぶのに等しいことくらい、まともな人間ならわかるだろうに。モスクワに住む友人から、今のロシアはどうしても好きになれないというメールが来た。


09月07日(火)[イラクでの米軍の死者が1000人を超える]

ロシアの学校占拠事件のことが気になる。今日になって占拠中の体育館の内部の映像(犯人グループが撮影していた)が公開された。何という恐怖の映像か。そこに映っていたかなりの人々が死んでしまったのだ。映像の状況から、犯人グループが仕掛けていた爆発物が偶発的に爆破して、一瞬のうちにパニックに陥った可能性が何となくわかるのだが、それにしても彼らは何者なのか?
イラクでの米軍の死者が1000人を超えた。モスクワの事件の後では、何か数字に関する感覚が混乱してマヒしてしまうのだ。ほぼ同じ時期にイスラエルがパレスチナを空爆して15人の死者が出ても、ロシアのメインのニュースの影で霞んでしまうという倒錯、退廃。死者の数が出来事の重要さを示す唯一の指標ではない。しかし、1年半を経て被った米軍の死者の総数は、ロシアの一件の事件の死者数のわずか2倍にすぎない。そして、いまだに発表・公表さえされないイラク人の死者数は米軍の死者数とはケタが違うはずである。スポーツ・クラブで知り合ったイラク人法律家に久しぶりに会った。『アメリカ軍の死者がとうとう1000人を超えたね』と話すと、『イラク人はもっともっと死んでいるよ』と言われた。彼は18日から再びバグダッドに入るそうだ。無事を祈らずにはいられない。


09月08日(水)[レベッカ・ブラウンでも読んで、この鬱陶しさを紛らわそう]

何だか雨続きで鬱陶しい。世の中で起きていることも凄惨なことが多いような。ワシントンはいっぺんに秋に突入した感がある。冷房が嫌いなので夏は窓を開けっ放しにして寝ていたが、もうよそう。翻訳本でレベッカ・ブラウンの『体の贈り物』を読む。何だか無性に励まされる気になるのは弱っているからか?僕らは死にゆく人々とともに生きている。僕ら自身も死に向かって毎日を生きているという現実。何が「圧政からの解放」だ?何が自由だ?何がデモクラシーだ?そういう言葉にうんざりする、この鬱陶しさをレベッカ・ブラウンのこの本は癒してくれる。
創作のなかには事実を超えた真実が宿る。だから作家という仕事は一度その喜びを知ったらやめられないのだろうなあ。


09月09日(木)[どうやらブッシュ優勢がはっきりしてきた]

CBSの世論調査が出た。ブッシュ陣営は、共和党大会を経て、バウンス(勢い)を獲得したとの結果が出ている。ブッシュ/チェイニーの現職コンビはケリー/エドワーズのチャレンジャー・コンビに7ポイントの差をつけて優位を確実なものにした。夕方にはワシントン・ポストとABCの調査が出たが、こちらの方は9ポイントの差でブッシュ陣営がリードしている。ニューズウィークに至っては11ポイント差だ。どうやらレイバーデー明けの世論調査は「ブッシュ優勢」がはっきりとしたようだ。これからよほどのことがない限り、この流れを覆すのは困難かも知れない。遊説先での勢いもかなり違う。中味は同じことを繰り返しているばかりで何の新鮮味もないのだが、聴衆の側の勢いが違うのだ。「USA!USA!USA!」を熱狂的に連呼する人々。自分たちの国が世界一だと思っていて、それを誇示する姿。そこに「傲慢さ」をみるか、「自信と信頼」をみるか。どうやらこの国の成り立ちを根本的に考えることが必要なのだと思う。人工的に「建国」した移民の国という歴史の成り立ちを。そのためにはイスラエルの歴史が参考になるのかもしれない。ともあれ、これだけブッシュ大統領が大好きな人たちが多いのが今のアメリカなのだ。この現実をしっかり見据えておこう。


09月10日(金)[CBSのダン・ラザーが怒りで声が涸れていたこと]

きのうのCBSテレビ『60ミニッツ』がスクープとして報じていたブッシュ大統領の軍歴疑惑に関する文書がねつ造の可能性があると、けさのワシントンポスト紙が報じた。CNNなどは鬼の首をとったかのようにウルフブリッツァーがしつこく報じていたが、本当の所はどうなのか。CBSがどう反論するか、注目して今日のCBSイブニングニュースをみていた。『60ミニッツ』が独自に入手した文書は、ブッシュ大統領がベトナム戦争当時、徴兵を逃れるために、どの有力政治家の師弟もよく使っていた手だが、親のコネを使ってテキサス州の州兵に入っていた当時の上官(故人)の保管していた個人文書である。それによれば、ブッシュ氏は州兵の任務基準を果たしていなかったが、この上官らは「上からの」圧力で飛行訓練を免除したり、評価を甘くしていたりしたというものだ。これが事実とすれば「戦時大統領」という自らのセールスポイントも一気に色あせる。「チキン・ホーク」という言葉がある。臆病な(卑怯な)タカ派というほどの意味だが、どうもこの政権にはチキン・ホークの臭いが漂っている。パウエル国務長官を例外として。つまり、自らは戦場体験がないのに、他人を戦場に(勇ましい号令とともに)送り込む輩。日本にも「ひるんではならぬ」とか言っている同類がいるもんね。さて、CBSニュースはこの「ねつ造説」に対して、真っ向から正攻法で反論した。ダン・ラザーの声は涸れていた。怒りのあまりだろう。すさまじい勢いで検証報道をやっていた。筆勢鑑定家やら当時の上官の知己やら総動員して「ねつ造」説に根拠がないことを証明していた。
最も大きなポイントは、ベトナム戦争当時のタイプライターでは打てない小文字の「th」があるという主張だが、CBSニュースは1968年当時からそれを打てるタイプライターが実在していて、当のホワイトハウスが公表した文書のなかにも小文字の「th」があることをしっかりと反証していた。今のような時代では「ねつ造説」もねつ造できる。それこそコンピュータグラフィクスを駆使したり、有力メディアの記者にねつ造説をリークすれば、またたくまに「ねつ造説」だけが拡がる。そういう意味では、CBSニュースの根性は見上げたもんだ。NYタイムズのジュディス・ミラーとかとは違う。ワシントンポスト紙のマイク・アレン記者は誰かに囁かれたのだろうか?再反論を見守ろう。

昼飯時にプレスビルの正面に出たら、ラムズフェルド国防長官に抗議するグループがビルの前でシュプレヒコールをあげていた。わずか10人ほどのグループ。「アブグレイブ!シェイム!シェイム!」。ナショナル・プレス・クラブでの講演で、大きな拍手でゲスト席に迎えられたラムズフェルド長官は、上機嫌だったが、スピーチのなかで、フセインとビンラディンを混同していた。アメリカのごく普通の人々にとっては、そんなことどっちだっていいか?両方ともテロリストで悪人だから?


09月11日(土)[自由なイラクのテレビにリアリティTVが登場]

同時テロ事件から丸3年。アメリカの服喪の日がめぐってきた。今年は土曜日なので、休みモードがどうしても入っている。ブッシュ大統領は恒例の土曜のラジオ演説をオーバルオフィスからテレビカメラを入れて生でやった。9・11と言えば、共和党大会のブッシュ演説を思い出す。あれで一気にブッシュ大統領は会場の人間を「陶酔」させた。勢いをつけた。あの悲劇を忘れたのか!あの時、陣頭指揮を執ったのは自分とジュリアー二だったじゃないか、と。フロアの代議員の中には目頭を涙で濡らしている人もいた。ジュリアー二という人物は、ついこのあいだモスクワに飛んで学校占拠事件について「連帯」の意を表しに行った。ロシアの「9・11」だとかテレビで喋っていた。ここまでくるとジュリアー二という人物の「調子のよさ」がかえって鼻につく。
閑話休題。さて、「自由になった」イラクのテレビ局に何とリアリティTVの番組が登場したとか。「労働と材料」(Labor and Materials)とかいうタイトルらしい。戦争で破壊された家を再建するというテーマで、実際にそういう境遇にある人を訪ね歩いて番組のリポーターが家の取り壊しから再建までをルポするのだという。まあ、無理矢理、人工的に困難な状況を作り出してお気楽に楽しんだり、疑似恋愛ゲームを本気で競うアメリカのクレイジーなリアリティTVに比べれば、リアリティ=放送材料は身の回りにいっぱい転がっているということなのか。それにしても、現実をテレビのリアリティ・ショウに仕立てる際の「作法」というか、「やってはならないことの限界」というものがあるだろうに。大昔に見た「リアリティTV」の走り(と言ってもアメリカのパクリだろうけれど)に『どっきりカメラ』というのがあって、いまだに記憶に残っているヒドい仕掛けがあった。こんなことを書いても知らない人がほとんどだろうけれど、昔、漫才コンビに「春やすこ・けいこ」というのがいた。そのコンビが「どっきりカメラ」に出た。お客が全員仕込みのやくざ風の男たちばかりで(もちろん、やすこ・けいこには知らされていない)、どこかの温泉地の演芸場のような舞台で、彼女たちが漫才を熱演するのだが、このやくざ風の男たちの客がまったく反応せず、しまいには「全然オモロないわ」とか言って絡み出すのだった。みていてハラハラした。ヒドい仕掛けを考えるもんだな、と思って見続けたのだ。それでも自分たちの芸にプライドをもっている「やすこ・けいこ」は必死に漫才を演じ続ける。見ていて涙が出てきた。その気高さに、だ。とうとう舞台に野呂圭介だったか誰かが出てきて「どっきりカメラです。これ全部ウソ」とかバラした瞬間に、「やすこ・けいこ」が泣き出したのを覚えている。現実をリアリティ・ショウにして弄ぶな!・・・・そして、その課題はイラク戦争の時にみた多くの戦場報道についても、どこかで通底している。


09月12日(日)[ブッシュ大統領のイラン理解の外の外の外]
最近のブッシュ大統領の遊説先での演説と、それに対する聴衆の反応ぶりをみていると、キリスト教「原理主義」のような独善性を感じてしまう。というより、ちょっとコワい。こんなに自分たちだけの価値観を誇示する文化のありようにだ。アフガンやイラクの民衆を解放してやった、イラクは戦後のジャパンのように今にアメリカと仲良くやれる、パールハーバーを奇襲したあのジャパンの小泉首相だって見てみろ、今やかつての敵ジャパンは対テロ戦争のためにアメリカと手をとりあっている、だから民主主義、自由、これだ、これを大中東に、全世界に広げるんだ!万雷の拍手鳴りやまず・・・・・こんな光景を毎日のように見させられると、いささかウンザリしてくるのだが、そこには異文化が入り込む余地などない。異文化はアメリカによって訓化されるべきものなのだ。
東京のMさんから送られてきたモフセン・マフバルマフ監督(イラン)の古い作品『ギャベ』(96年)をみる。イランの遊牧民の幻想譚。その色彩の美しいことといったら。「人生は色彩だ!」とは映画のなかの台詞だが、こんな優れた作品の前には、ちょっと食傷気味の『華氏911』なんて、スケールの小さな作品に思えてくるから不思議だ。つまり『華氏911』は消費されてしまう類の作品ということなのだろうか。『ギャベ』はそんな簡単には消費されない。マフマルバフは『サイクリスト』や『カンダハール』も素晴らしい作品だったが、イランの映画がこのように豊かなのは、もちろんブッシュ氏のイラン理解(悪の枢軸)の外の外の外の外のことだろう。

09月13日(月)[「早くヤツを死刑にしてしまえ」と決めた法務省刑事局のある人物]

今回の大統領選挙では表だった争点にはなっていないが、ブッシュ大統領は熱烈な死刑制度の支持者である。テキサス州知事時代にブッシュ氏は、あわせて152人の死刑執行書にサインした。とんでもない数だ。テキサス州は死刑最頻州のひとつだ。最近になって過去に「誤判」がかなりあったことがDNA再鑑定などで明らかになっているが、この国ではそういうこともあまり大きなニュースにならない。何しろ、イラク戦争でも万を超す人間を殺しているのだ。ところで、こんなことを書く気になったのは、宅間守・死刑囚の死刑が執行されたという日本からのニュースを知ったからだ。池田小事件は本当にむごい事件だった。当時、東京で夜のニュース番組の編集長をやっていたので、よく覚えている。その後も、宅間は極悪非道の象徴のような人間として、法廷で振る舞い、僕らメディアもそのように彼を報じてきたと思う。本人が控訴を取り下げて死刑が確定していた。それからわずか1年もたっていない。法務大臣は何を考えて死刑執行命令書に署名したのだろうか。今の死刑執行の仕組みでは、法務省刑事局の然るべき人物が、頃合いを見計らって(たいていは国会の会期外のことが多い)死刑にする人間をピックアップするのである。その後、省内の協議を経て、極端に言えば、法務大臣はその説明に基づいて最後に署名する役割を負わされているのである。確定から1年以下の宅間がなぜ「選ばれた」のか?選んだ法務省刑事局の人間の判断の中に、僕はどうしようもない絶望的なものを感じる。なぜならば、敢えて言えば、対社会での「受け」を意識した行為の側面を感じてしまうからだ。憎しみの感情が消えないうちに憎しみを惹起した人間を一気に抹殺してしまうこと。これは近代的な刑罰の概念とはかけ離れたものだろう。人間が負った傷から癒されるのにはそれ相当の時間がかかる。それを一気に飛び越して、殺しにかかる判断に空恐ろしさを覚えるのだ。もちろん、こんな考えに異論が多くあることも承知している。ことわっておくが、僕は宅間という人間が犯した罪は救いようがないくらいに残忍な犯行だと思っている。


09月14日(火)[イラクで今起きている流血が争点にならないこと]

支局で一緒に働いているMは、マサチューセッツ州出身のデモクラッツ支持なので最近機嫌が悪い。どの種の世論調査でも、ブッシュ陣営の優位は明らかだ。その差も7〜9ポイントと結構大きい。共和党大会前が、互角ないしはケリー陣営が僅差で上回っていたことを考えると、いわゆる「バウンス」を得たことは確実だ。それに加えて、CBSテレビが『60ミニッツ』で、ブッシュ州兵時代の軍歴疑惑をまた持ち出したことにも、「何で今頃こんな問題を持ち出すんだ」と不満をぶちまけている。「こんな古い時代のことは今の有権者には関係ない」と言うわけだ。彼の言い分は分からないでもないが、ケリー陣営の戦術的失敗は「ベトナム戦争の英雄」を持ち出したことではないか、と個人的には思う。そんな昔のことよりも、今のことだろう!というわけだ。今、イラクで起きていることがなぜ大統領選挙で正面の争点にならないのか。ナオミ・クラインも『Nation』誌で不満をぶちまけている。ナジャフで起きたことを誰ひとり語らない、と。主権移譲後は「よその国」のことなのだと言わんばかりの、この圧倒的な無関心。今日もイラクでは40数人の死者が出ているというのに。今、現在、イラクで起きていることはアメリカと無関係どころか「暫定政権」も含めて、アメリカが当事者なのだが。ケリー陣営がイラク戦争問題から「撤退」して、ベトナムにシフトしたことが、根本問題だったのではないか。「フリップ・フロップ(どっちつかず。優柔不断)」というブッシュ陣営からの論難が実に効果を発揮している根拠がそこにあるのではないか。ともあれ、Mの機嫌が11月2日までに直る気配はちょっと薄い。困ったな。


09月15日(水)[「他人の試練は蜜の味」という品性]

CBS『60ミニッツ』が報じたベトナム戦争当時のブッシュ大統領の州兵・軍歴問題で、CBS入手文書の信憑性をめぐって、ねつ造説がホワイトハウスからも表明されている。競争他社は、CBSの入手文書がニセ物だという専門家の鑑定を独自に行って、CBSをターゲットに据えているようにも見える。今日のホワイトハウスの会見では、マクレラン報道官に、次のような質問をした記者がいた。
(ジェフという記者)『今日に至っても、彼ら(CBS)は、ほとんどの専門家がおそらくニセ物だと断じている文書が本物だと言っている。ネットワーク局の信頼性、客観性が今や疑問にさらされてる以上、ホワイトハウスはCBSが司会をする大統領TV討論の不参加を考慮中なのではないか?』
(マクレラン報道官)『うん、TV討論ということで言えば、ここで2つのこと(CBSの報道と大統領TV討論)を結びつけはしない。それぞれ2つの選挙陣営で討論中のことがらだ。現時点ではどんな新しい変更もない。』
問題の本質は、ブッシュ大統領が州兵時代にまともに服務していたか、それとも、親のコネや影響力を行使してアンフェアなことをしていたか、ということなのだが、今やメディアは、ネットワークTVのある意味の「権威」ダン・ラザー及び「60ミニッツ」攻撃に腐心している。他人の不幸じゃなくて試練は蜜の味、というわけだ。夜8時からの『60ミニッツ』は、それでもCBSは踏ん張っていた。decency(品性)は失いたくないものだ。この国でも日本でも。


09月18日(土)[ナオミ・クラインが語ったこと]

ずっとインタビューしようと考えていたナオミ・クラインに会う機会がめぐってきた。彼女は「ガーディアン」や「ネーション」、最近では「ハーパーズ・マガジン」誌にも「バグダッド零年」(Baghdad Year Zero)というルポを書いていた。ベトナム戦争がイラク戦争の代わりに今の大統領選で語られていることにイライラをつのらせていたが、彼女の話で面白かったのは、バグダッド滞在中に見聞きしたことだ。例えば、グリーンゾーン内に若手の共和党員がたくさんいたこと。そこでは何でも持てる。20代の若さでマイホームも。兵士に守られながらジョギングもしている。不可思議な「サマーキャンプ」のような体験をしているのだ、という。そのパッションの源は何なのか?それは資本主義の原型のような欲望だ。イラクは今や共和党員の夢想する「ユートピア」だという。またCIA要員が600人いて、そのかなりの部分が報道要員(プレス)を装っているのだという。バグダッドは今や世界最大の諜報員が跋扈する都市になっているのだという。そこで起きたイタリア人のNGOボランティア女性、シモーナ・トレッタの誘拐拉致事件についても聞いた。ナオミ・クラインによれば、その手口や目撃者証言などから、イラク内務省の秘密警察による「拉致」の疑いがきわめて濃厚だという。彼女たちの活動は目をつけられていた。諜報機関の影も散らついている。
さて、なぜ、イラクは大統領選挙のメインテーマになっていないのか?何と言っても民主党の選対が「反戦」を禁句にした時、つまり、ディーンが敗れ去った時から、「イラクへの反戦の意思表示」はタブーになったのだという。そう言う意味では、アメリカ国民には、今のブッシュ−ケリーの対決では「選択肢」がない。2大政党制の欠陥の最も深刻な例がここに集約されている。スペインのような選択肢がアメリカ国民にはないのだ。ナオミ・クラインとのインタビューは時間を大幅に超過して1時間ちかくになってしまったが、とても有益だった。


09月20日(月)[CBSニュースが全面謝罪ということに・・・・]

きのうのワシントンポスト紙を読んでいて考え込んだ。ハワード・カーツらがCBSブッシュ軍歴報道に関する1ページ以上を割いた異例の検証記事を掲載していたのだ。CBS内部でいかにオンエアが優先され、警鐘が無視されたのかを、時々刻々と検証して伝えている。正直、恐ろしいと思った。記事の情報ソースは明らかにCBS内部にもあった。ここまでくると、CBSも何らかの対応をとるだろうと思っていたら、事態は今日になって急展開した。お昼にはCBSニュースとキャスターのダン・ラザーがそれぞれ、問題の入手文書の信憑性を否定する声明を出した。全面敗北に近い。『60ミニッツ』やCBSニュース、それにダン・ラザーは相当のダメージを被るだろう。夜、ナショナル・プレス・クラブでマービン・カルブのメディア論関連のパネルがあったので、のぞいてみたら、やはりCBSのこの問題が真っ先に取り上げられていた。基本的にはニュースソースの信用性を詰める作業の甘さを指摘していたのだが、カルブは、今回の出来事は結果的に見れば大メディアがネット上のBLOGに屈したように見える側面もあると指摘していた。『60ミニッツ』オンエア後、わずか4時間で、報道内容に疑義を呈する意見が7000以上殺到した事実をあげていた。これで軍歴問題にはフタをする動きが加速されよう。その意味で、この出来事の影響はかなり大きなものになるのではないか。正直、先が読みにくい。と、テレビをつけると、レターメンのショーにジョン・ケリーが生出演している・・・アメリカのテレビのこの消費速度の速さと言ったら。


09月22日(水)[健全な自省力のゆくえ]

例のケリーに対するネガティブ・キャンペーンを展開している「527団体」のひとつ『真実のための高速艇退役軍人』が、また新しいテレビCMを放映しだした。今度のは女優ジェーン・フォンダを引き合いに出して、ケリーはジェーン・フォンダと同類のリベラル、こんな裏切り者が信じられるか、とやっている。ジェーン・フォンダは先日、CNNのポーラ・ザーンの番組に出ていたが、いまだに軍内部では「ハノイ・ジェーン」と呼ばれていて裏切り者の代名詞となっている。ベトナムのトラウマがどこまでも続く。
そのベトナム戦争の軍歴報道で、全面謝罪したCBSの件について何人かの人と話をするチャンスがあった。もっとも有益だったのは、マービン・カルブとのインタビューだった。特に彼が同業メディアが嬉々としてCBS叩きに興じた事実を評しながら「あきらかにオーバーキルだ。彼らはホワイトハウスと保守層に対して、問題なのはCBSだけで自分たちはクリーンですよとでも証明したかったんでしょう」と語っていたのが印象的だった。また、ワシントンポスト紙が紙面2ページを使って大々的に報じたこと(ハワード・カーツの記事)に触れて「彼らはCBS問題が世界で2番目に大きなニュースだと報じた。明らかに馬鹿げている」とたしなめていた。また、BLOGが主要メディアを負かした、とかいう「俗説」を笑い飛ばしていたが、今や主要メディアがBLOGから影響を受けていることは否定できない、とごくごく真っ当な意見を述べていた。健全な自省力を見た気がした。帰宅寸前に、イラクで誘拐されたイタリア人女性2人(ナオミ・クラインが触れていたシモーナ・トレッタさんら)が殺害されたとの情報がウェブ上で流れたとの嫌なニュース。


09月23日(木)[「ありがとう、アメリカ!」はイラクの民の声か?]

とても気持ちのよい気候が続いている。正午から議会の合同会議でアラウィ暫定政権首相が、演説を行った。イラクの議会で、「スタンディング・オベーション」という習慣があったのかどうか知らないけれども、「ありがとう!アメリカ」というメッセージを連発するアラウィ氏に、アメリカの議員たちが立ち上がってものすごい拍手を送る様をみていると、この拍手・喝采は誰に向けて送られているものなのだろうか?と思ってしまう。イラクは安定とはほど遠い状況にあるというのに。そのあと、天気がいいし、ホワイトハウスのブッシュ・アラウィ会談後のローズガーデンでの共同記者会見をのぞいた。50人ほどの記者とカメラクルーがその半分くらい。アラウィという人は随分顔が大きく体格がいい。ライス補佐官とアーミテージ国務副長官の姿がみえる。イラク国営テレビの記者がひとり来ていて質問をした。NBC記者のグレゴリーが「イラク侵攻でアメリカがより安全になったというのが選挙のテーマになっている。アメリカ国民はそれを信じていないようだが」と突っ込むと、ブッシュ大統領は「いや、それは違う。サダムが権力を握っている方が安全だなんて思ってる人は間違っている」と、答をすり替えていた。それにしても、ここでもアラウィ氏はアメリカへの感謝を繰り返していたが、「ありがとう!アメリカ」はほんとうのイラクの民の声だろうか? その答は来年の1月に行われると確言したイラク総選挙でほんとうに出てくるのだろうか?


09月25日(土)[ボストン・レッド・ソックスという記号]

村上春樹の新作『アフターダーク』を読んでいたら、主人公浅井マリが外で被っている帽子が、ボストン・レッド・ソックスのキャップなのが可笑しい。やっぱりNYヤンキースとかドジャースじゃダメなような気がするから不思議だ。マリが被っているキャップは絶対レッド・ソックスじゃなきゃ。それにしても、日本の現代小説に扱われる舞台が、何でこうも深夜の渋谷が多く、中国人の闇社会が絡んでくるのだろう。矢作俊彦の傑作『ららら科學の子』もそうだし、ランディもそうだ。シブヤは世界でも特異な空間になっているような気がする。こんな場所、このDC近辺にはないものなあ。人間の欲望の磁場というか。もう何十年も前に、寺山修司は書いた。『書を捨てよ。街へ出よう』と。
寺山自身が今の磁場としてのシブヤをみたらどのように言うだろうか。書は捨てられた。みんなが街に繰り出して家に帰らない。いや帰る家はこの何十年かのなかで壊れた。書の代わりに携帯が必需品になった。このような場でも、人間の営みはそれほど変わっていないのだ。永遠の追憶のなかの少女。寺山の『初恋・地獄篇』の心象風景は、実はシブヤの『アフターダーク』と重なってさえ見える。そんなことを2002年までのシブヤの記憶をたぐりながら、このワシントンDCで考えている。


09月27日(月)[ハリケーンを思いっきり楽しむ?米テレビ]

今年は、ハリケーンの当たり年のようで、フロリダをすでに4つのハリケーンが襲っている。今は、ハリケーン・ジーーンが上陸して甚大な被害を与えた。米テレビの報道をみていてつくづく感じるのは、この人たちはハリケーンを面白がっているんじゃないか、という呆れるほどの「商売根性」だ。それは同業者としてみていて気持ちがよくない。ハリケーン直撃地の海岸に出て「体当たりの」中継リポートをする。その代表格はCNNのアンダーセン・クーパーだ。一番ひどい風雨の「絵になりそうな」場所出かけていって中継リポートをする。それを自分の番組で繰り返しビデオでみせる。「どうです。面白いでしょ。体当たりリポートですよ。風で飛ばされそうになるのを重しをつけてやったんですよ」。そういうホンネが透けて見えるような気がする。ハイチでは千人人を超す死者が出て、避難を余儀なくされている人がいても、アンダーセン・クーパーは、ハイチの被災地ではなく、自分のリポートを何度も何度もみせる。もっとヒドいのになると、高波下の海に膝まで入ってリポートしている黒人リポーターがいた。何でそこまでやるんだい?いけない、ここはアメリカだ。何でも面白けりゃあ「あり」だもの、戦争の実況中継も含めて。日本の報道の台風中継はここまではヒドくないよな、と思いながらチャンネルをかえる。


09月28日(火)[イラクで謎の誘拐にあった伊女性2人が解放された]

ナオミ・クラインも疑問を呈していたイタリア人民間支援ボランティア(人によっては活動家などと言う)の2人の女性が解放されたというニュースが午後になって入ってきた。よかった!「ザルカウィの支持者たち」だの「ジハード機構」だのといった奇妙な団体が殺害声明を出していたので、それらの声明が全部ニセモノだったことが判明したことになる。一体、誰が彼女らを誘拐したのか。どう考えても、奇妙なことだらけだ。
今週は、木曜日の大統領選挙の第1回TV討論に注目が集まっているが、ブッシュ、ケリー氏ともに今日は「お籠もり」で、討論のための準備をしているという。カレン・ヒューズがブッシュ大統領とともにクロフォードにとどまり、この討論のための練習につきっきりのようだ。例のCBSの軍歴疑惑報道の問題がどれくらい大統領選挙に響くか、まだわからない所も多いが、Nation誌曰く、「イラク問題の方が、ダン・ラザーよりもかなり大事だ」(That,rather than Rather,is the issue.)。なるほどね。


09月29日(水)[ワシントンに大リーグ球団が33年ぶりに戻るって]

あしたの大統領選テレビ討論の準備をしようと支局へ向かう通勤中にカーラジオを聞いていたら、ローカルラジオ局のWTOPが絶叫調で何やら叫んでいる。ワシントンDCが33年ぶりに大リーグ球団の本拠地になる、と。モントリオール・エクスポズの本拠地移転を大リーグコミッショナーが正式に決定し、首都ワシントンDCに決まったというのだ。野球はやはりこの国では「国技」なので、その喜びぶりは大変なものだ。夕方にはウィリアムズ市長らが真っ赤なキャップをかぶって記者会見した。「野球がワシントンに戻ってきました!」。何で市長やらが総出で会見するんだい、と言ってみても始まらない。ここはアメリカなのだ。移転にともない、球団名も変えるとかで、WTOPでは聴取者からさっそく新・球団名を募集しだした。それが結構可笑しい。ワシントン・モニュメンツ、ワシントン・ルーザーズ、ワシントン・ビュロクラッツ、ワシントン・Ex-expos、ワシントン・レッド・ホワイト&ブルーソックスとか、ほとんど投げやりだ。ともあれ、来春はこの地で大リーグがみられる。


09月30日(木)[テレビ討論という「まな板の上の鯉」]

マイアミ大学のテレビ討論プレスセンターに着いたのは、何と討論開始の2時間前を切っていた。純粋に移動に費やす時間と厳重なセキュリティ・チェック(ホントに何が「世界はより安全になった」だよ)の合計が7時間。クタクタだ。もっと早く着いておくべきだったが後の祭り。あわててセットアップにかかる。ワークスペースはまるで通路の真ん中のようにせわしなく慌ただしい場所。とにかくここでやるのだ。ブッシュVSケリーの一騎打ち。プレスセンターの記者たちは、真剣にモニター画面の討論を見続ける。この緊張感は来て参加しなければわからない。みていて思ったのは、ブッシュという人は、身内の聴衆のなかでプロンプターを使って用意された原稿を読むのは(つまり演じる、その指導の中心人物はカレン・ヒューズだ)なかなか器用な人だが、いざ討論のようなアドリブ、原稿のないシーンでは案外弱いのだ、ということ。イラク戦争という深刻なテーマでは、明らかに攻勢に立っていたのは、ケリーだった。これだからテレビというのはコワい。候補者は「まな板の上の鯉」になる。聞き手がPBSのジム・ルラー。けばいアンカーマンとは対極の信頼されているベテラン・ジャーナリストだ。そう言えば、ブッシュ大統領は、討論の前の週にはFOXニュースのビル・オレイリーのインタビューは受けていたものなあ。とても意気投合していたが、そういう場では強いのだ。しかし、面と向かって責められた経験は、今年のEUサミット前にアイルランド国営テレビのインタビューでたじたじに責められた以外に記憶にない。しかし、これでケリーが終盤戦の流れを変えたかどうかとなると、意見が分かれるだろう。決定打を欠いていたことも事実だから。東京に向けて素材を送りおえて、撤収したら午前1時40分。レストランはどこもとっくに閉まっている。寝るしかない。

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