農と言える日本・通信 No.10 1999-10-20       高野 孟

●《報告》鴨川は日本・チベット・モンゴルの大交流でした!

 10月16〜17日の鴨川集合は、チベット仏教高僧ニチャン・リンポチェ師とその お弟子さんたち10人余りと、高野の塾生であるモンゴル人留学生ら10人、東京からの 常連組6人、藤本国王ほか自然王国メンバーに近在の方々まで参加して、日本・チベ ット・モンゴルの3国大交流となって大いに盛り上がりました。

 土曜日は、山賊小屋の前の荒れ果てた森の整備作業を行いました。杉、檜、広 葉樹が混在する、本来はいい森なのに長年放置され、下地は薮と蔓と雑木で足を踏み 入れることも出来ず、杉の半分は発育不全のまま立ち枯れしている有り様なのを、山 の持ち主に了解を得て我々の演習林として手入れさせてもらうことにしたもので、今 回はモンゴル学生諸君の力強い働きもあって、かなり整備が進み、一応森の中に木漏 れ日が差す程度になりました。さらにていねいに手を入れてから、来年春までにはこ こにツリーハウスを数軒建てて、泊まれるようにする計画です。藤本さんの風呂とサ ウナの建設も着々進んでいます。

 土曜日夜は、チベット組のみなさんによるチベット料理で大宴会。頑張る人は 2時頃まで焚き火を囲んで飲み続け、裸で踊り出した女性がいたとかいう噂です。  日曜日午前は、ガンコ山へのミニハイキングのあと、一部は森林作業、一部は昼か らのチベット式護摩祈祷の準備、モンゴル学生の一部は近在の陶房本郷に恩田さんを 訪ねて陶芸を初体験し、午後からはいよいよ護摩祈祷。リンポチェ師の読経が響く中 、2メートルほどに積み上げられた護摩から盛大に煙りが沸き起こり、煩悩の固まり である我々もこの時だけは魂を浄められたのでした。

 次回の鴨川集合は、11月13〜14日です。今年最後の定期集合と大宴会ですので 、奮って御参加ください。なお、前にもお知らせしたように、次の帯広集合は11月20 〜23日です。


●《研究》米ヌカのパワーと魅力

 鴨川の長狭米を玄米で送ってもらって、家庭用精米器でその都度、必要なだけ を搗いて食べるようになって、また一段とご飯が美味しいのですが、同時に、自分で 精米すると、玄米の量の10分の1はヌカとして残ります。それをどう活用しようかと 思っていたところ、ちょうど『現代農業』12月号の特集が「アメリカも注目!米ヌカ の魅力」。さっそく読んで、改めて米ヌカのパワーと魅力に驚きました。以下、私の メモからその要点を記します。

▼玄米1合を精米すると14グラムのヌカが取れ、それから搾油すると1.5グラムの 米ヌカ油が取れ、残りは脱脂ヌカとして残る。日本全体で年に1000万トンの米を生産 するとして、その1割にあたる100万トンのヌカが出て、そのうち60%は搾油、キノ コ栽培の培地、漬け物、肥料など産業用の大口利用に回されるが、残りの40%は農家 や精米業者の段階で十分活用されているとは言えなかった。ところが近年の自然素材 重視の流れの中で、「米の生命の凝集した部分」である米ヌカの発ガン抑制作用はじ め医薬効果、化粧品・石鹸、ヌカ風呂などの美容・健康効果、それらを家庭で手軽に 活用するための料理法などが注目され出している一方、稲作はじめ無農薬農業のため の肥料や土壌改良、雑草抑制などへの活用が試されるようになって、米ヌカが手に入 りにくくなり、街の米自動販売機からヌカが盗まれる事件も起きているほどである。

▼「米ヌカは神様からの贈り物」だと斉藤正明は書いている。食べ物はよろず丸 ごと食べると、すみやかにバランスよく消化・吸収できるようになっているが、お米 でいえば玄米がそれである。玄米に含まれるビタミンとミネラルを100とすると、胚 乳部分(つまり白米)には5しか含まれておらず、米ヌカ部分に95(胚芽部分に66、 表皮部分に29)が集中している。つまり、10グラムの玄米のうち肝心なのは1グラム の胚芽=ヌカであり、それを活かすためのエネルギー源=デンプンとして9グラムの 胚乳が用意されている――というのがお米というものの基本構造なのである。だから 、お米の恵みを体に取り入れて元気になるには、ヌカを食べなければ意味がないこと になる。逆に、白米に含まれるビタミンとミネラルを100として、ヌカに含まれるそ れらの比率を調べると、ビタミンE=625、ビタミンB1=450、繊維=333、ニコチン 酸=323、ナイシアン=300、脂質=231、鉄=220、ビタミンB2=200、カルシウム= 166、タンパク質=100、カロリー=96などとなる。ヌカを食べないということは、白 米の2〜6倍ものこれら栄養素を捨てていることになる訳である。

▼昔の日本人は、こんな分析は知らなくとも、米に数々の“徳”があることを知 ってそれを余すことなく活用していた。文久3年(1861年)に三浦直重が著した『米 徳糠藁籾用法教訓童子道知辺(米の徳である糠・藁・籾の用い方を子供たちに教える ための教科書)』には、ヌカについて、素肌を洗う、ものに付いた油を洗い落とす、 漬け物を作る、紺屋で炒りヌカに糊を混ぜて染め抜きに使う、ヌカとまぐさを混ぜて 馬の飼(かい)にする、炒って小鳥のえさにする、畑のこやしにする、ヌカを袋に包 んで井戸掘りの錐の穴に詰めておくと清水が沸き出す(水に解けている鉄などの金属 イオンを吸着する力が米ヌカにあることを知っていた?!)……等の活用法が説かれ ている。モミについては、緩衝剤、湿気取り、道路補修など、ワラについては、疊、 俵、屋根葺き、草履などの活用法が描かれる。これらすべてを活かすことが、米の徳 に触れることになるのである。

▼このような江戸時代の米の徳の用法が1世紀以上を経て新しい次元で蘇りつつ あることを示したのが、昨年6月に京都で開かれた「第1回米の高度利用に関する国 際シンポジウム」である。そこでは、アメリカの研究者も含めて米ヌカの機能成分に ついての研究発表が数々行われたが、とりわけ注目されたのは、ヌカに含まれるイノ シトールや、それとリン酸が結合したイノシトールリン酸やフィチン酸で、ガンやエ イズに効く、血中脂肪を低下させる、抗菌作用がある、日焼けを抑えるなどの効用が 指摘された。もう1つはフェルラ酸で、従来は石炭のナフサから抽出したため極めて 高価(1キロ=20数万円!)だったのが、和歌山県工業技術センターと築野食品工業 の共同研究によって、米ヌカ油を精製する際に出るピッチと呼ばれる油状の廃棄物か ら取り出せることになって、一躍世界の注目を集めた。これは、「赤ワインに含まれ る」ということでワイン・ブームに火を着けるきっかけの1つになったポリフェノー ルの一種で、抗酸化作用による酸化抑制や、活性酸素による遺伝子への危害の抑制、 紫外線吸収作用、種子の発芽抑制、抗菌・抗ガン――などの効用の活用が期待されて いる。

▼農業の分野では、ヌカは従来は単なる肥料として使われてきた。ヌカにはチッ ソ2.0%、リン酸3.8%、カリ1.5%が含まれており、チッソが含まれない草木灰に比 べて程よくチッソが含まれているし、リン酸が2.5%の油カスよりもリン酸が多いか らである。しかし、近年は考え方が違ってきて、上述のような「神様の贈り物」であ るヌカの豊富なビタミンやミネラルとその抗菌作用などを堆肥や土壌の中に送り込ん で、自然の微生物を育てその活動を活発にさせる効果があることに関心が集まってい る。収穫直後の田んぼに籾や藁を鋤き込んで来春までに腐食させて地力を回復させよ うとする際に米ヌカを入れて微生物を活性化させるとか、田植え後の水田に米ヌカを 流し込んで、稲の育成を助ける一方、雑草の発生を抑えて無農薬・有機栽培を助ける とか、家畜の飼料に混ぜてその糞にまたヌカを混ぜて有機肥料にするとかいった、「 米ヌカ農法」が各地で試されて効果を上げている。

▼さて、我々一般家庭で米の徳を活用するには、(1)ヌカ袋を風呂に入れてヌカ風 呂にしたり、それで石鹸の代わりに体を洗う(美肌・健康効果)、(2)玄米のまま、 あるいは五分搗き・七分搗きにして、あるいはまた発芽玄米にして食べる、(3)ヌカ みそを作る(ヌカを洗い流さずに食べないとダメだそうです)、(4)ヌカを炒って( 出来ればそのいあともう一度製粉器にかけてもっと細かくして)、きな粉代わりに( あるいはきな粉と混ぜて)使ったり、味噌汁・スープ・カレー・卵焼き・焼そばはじ め“何にでも”ひとつまみ入れて風味と栄養を増す――などが『現代農業』で紹介さ れている。無農薬・低農薬の米でないとヌカが不味いそうです。▲