農と言える日本・通信 No.20 2000-02-23      高野 孟

《トラストについてのQ&A》
 さっそくいくつかお問い合わせがあったので、お答えします。
●トラストに入らないと鴨川の農作業に参加できないのでしょうか?
 そんなことはありません。すでにお知らせした年間日程に従って、昨年と同様、楽しみながらの農林業ボランティアとして是非ご参加ください。その場合、従来通り自分の宿泊・宴会費の負担だけでOKです。

●「大豆トラスト」だけ入ってもいいですか?
 もちろんです。「棚田トラスト」のほうは金額もやや嵩むし、今年は「大豆トラスト」だけにしておこうという方も歓迎します。棚田のほうに入らないと田植え・草取り・稲刈りはやらせてあげないなんてことはありません。

●これまで「長狭米頒布」に入っていましたが、それと「棚田トラスト」の関係は?
 トラストは、棚田を維持・保存するための支援運動なので、年会費3万円を払ってトラスト会員になっても、その金額に見合うだけの収穫を保証される訳ではありません。従って、年間を通じて長狭米を確保したい方で、トラストにも参加するという方は、これまでと同様、ひとまず長狭米の年間契約をして頂いた上で、トラストのほうから配分される分(その年の収穫量によって変動します)を差し引くことにします。例えば、無農薬長狭米を月に5キロ(年間60キロ=3万6000円)契約している方で、トラスト会員(年間3万円)にも参加した方は、仮にトラストの方から20キロの配分があった場合、その分(すなわち4カ月分=1万2000円)を長狭米契約から差し引いて受け取ることになるので、結果的には、従来は(何もしないで!)3万6000円で60キロの米を入手していたのに対して、トラストに入ると(草取りまでやって!)5万8000円払って同じ量の米を得ることになります。それを馬鹿らしいと思うかどうかは、皆さんのお考えひとつで、それでもいいから棚田保存に手を貸したいという方はトラストにも参加して頂きたいし、そこ,,
まではちょっと……という方は、これまでどおりの年間購入契約を継続して頂きたいと思います。(この項は私の独断で書いていて、田んぼの主である三示さんとまだ相談していないので、あとで変更があるかもしれませんが、ひとまずこのように理解しておいてください。)

《ファイルボックスから》
●「畑の宝石・大豆で元気」(サライ2月17日号特集)
 鴨川で大豆畑トラストが始まりますが、タイミングよく『サライ』2月17日号が大豆の特集を組んでいます。
「大豆が日本に渡来したのは縄文時代。『古事記』にも栽培の記述がある。『まめに暮らす』『まめな人』といった表現は健康や勤勉の代名詞に使われ、豆絞りや豆狸などは愛らしい様を言い表す。日本人と大豆の密接な関わりが分かる。

 大豆とはそもそも、マメ科の一年草で畑作物として栽培される。夏に淡紫色の花をつけ、豆果を結ぶ。その品種はさまざまで、白大豆、青大豆(ひたし豆)、正月の黒豆(丹波産が最高級)、雁喰豆(岩手県)、くらかけ豆(長野県)など全国に約60種ある。

 しかし国内自給率はわずか3%。アメリカ、カナダ産を中心に輸入に頼っているが、そこで浮上しているのが遺伝子組み替え問題。外から遺伝子を入れて、害虫がつかないとか、除草剤に強いとかいった品種を作って農作業を効率化し収穫量を増やそうという訳だが、その安全性には大いに疑問が持たれている。このような中で、消費者が共同で畑を借り上げ、農家に国産大豆を作ってもらう“トラスト運動”が各地に広がっている。千葉県八日市場市の東総農民センターでは、東京や埼玉から57人がトラストに集まって、休耕田27アールに大豆を作付け、約120キロを収穫した。参加費用は一口4000円、それで大豆5キロか味噌3キロと交換となる(ちなみに鴨川の場合は、30人で1反=10アール、一口4000円で平年作なら大豆4キロか味噌3キロを配当するという予定です)。このようなトラスト大豆畑は現在全国に54カ所ある」

 以下、全国の大豆料理の紹介、大豆料理を味わえる店の紹介がある。東京では、高田馬場の山菜料理「菊水」の女将が作る「味噌豆」、神田淡路町の焼き鳥「ハロー」の「ひたし豆」など。製品では、愛知県岡崎市の(株)八丁味噌は十勝産大豆トヨマサリ100%使用の八丁味噌を作っている(キロ1500円)。千葉県銚子市のヒゲタ醤油は国内産大豆による特製醤油「玄蕃蔵」を作る(申し込み制で500ml=1800円)。

●「安易な吟醸酒ブームはおかしい」という秋元浩の提言(『ECO21』3月号)
 「山田錦」を筆頭に、日本中で栽培された酒造米は、ほとんどが純米酒や吟醸酒に使われるが、特に全国新種鑑評会に出品するために作る大吟醸というと、米の中心部にある良質なデンプンのみで作るので、精米歩合が40%を切るのが当たり前。それを仕込んで搾って清酒になるのはそのまた50%以下。つまり、玄米の5割以上を糠にして捨て、それで仕込んだもろみのまた5割以上が粕になってしまうという、米に対して実に過酷な行程で吟醸酒は生まれる。

 そのような吟醸酒がもてはやされる一方で、世に蔓延する大半のフツーの日本酒は、「醸造用アルコールと糖類(今では酸味料まで使っている)を添加して3倍まで原酒を薄めていい」という酒税法(戦時中にモノがないので仕方なく考えられた便法が今も生きている!)に守られて、それら添加物にまみれたものになっている。しかも古米、古々米を使うから、味が出ず、愛飲家の日本酒離れを引き起こした。吟醸酒とフツーの酒とが二極分化する中で、灘・伏見の大手メーカーは、吟醸酒をより安いコストで作ろうと、オーストラリアで「山田錦」の栽培を始め、今年からいよいよその外国産米による吟醸酒も市,タ場に出る。日本の風土で育まれた米を大事にして、そのために日本の農家と手を組んで農業を大事にしていくという発想は彼らにはない。

 しかし他方では、同じ「山田錦」でも醸造適正を向上させるため田んぼの土から研究する蔵元や、明治・大正時代に作られていた手の掛かる品種の米を復活させて個性的な日本酒の魅力を求める蔵元が現れている。こうした蔵元は、農家を育て、農家と共に歩もうという価値観を持っている。秋田県の「出羽鶴」では、地元契約栽培農家が作った酒米「美山錦」を70%の精米ながら大吟醸と同じ手法で作った「米を磨かない大吟醸」として純米酒「旅人」を生み出した。また、純米酒しか作らない埼玉県の「神亀」では、四国・阿波の「山田錦」を「いい米だから磨かない」と80%しか精米せずに、新しい日本酒「仙亀」を作った。

★秋元さんは「水俣生活学校」の創始者の1人で、今は秋田県神岡町で酒店を営んでいる方です。やっぱ、吟醸酒は邪道だということですね。酒造米は倒れやすく、手が掛かる上、収量が少ないので、値段も高い。オーストラリアはアメリカ、カナダと並んで遺伝子組み替えに“積極的”な国柄だから、もっと丈夫で収量の多い遺伝子組み替えの山田錦が作られるかもしれないですよ。みなさん、出来るだけ素性のはっきりした純米酒を飲みましょう。特に「藤本敏夫」の純米酒はお勧め。飲んだことない? 麻布十番「はじめ」で純米酒ボトルを注文するとそれが出てきます!

●有機農産物の「出自参照システム」の実験(『VCOMニュースレター』2月5日号)
 「有機」と表示されていても本当かいなということがままあるが、VCOMの「食と森の認証」プロジェクトは、第三者による認証を受けた有機農産物、および転換期間中に農産物に付与される認証ラベルに記されている「認証番号」を入力すると、消費者がその農産物を作った場所や人、それに栽培記録をインターネットを通じて知ることができる「出自参照システム」を実験稼働させている。これは、同プロジェクトに参加している慶応大学藤沢キャンパスの修士学生が修士研究として作成したもので、まだ実験段階であるため、今は岩手県の特定の生産者についてのみ実データが参照できる。

★VCOMは阪神大震災をきっかけに金子郁容さんが提唱して生まれたボランティア団体の連絡組織で、インターネットを社会の中で活用するための様々な先端的な実験・研究に取り組んでいます。ホームページはhttp://www.vcom.or.jp です。

●「ネットで森林移住計画」(『日本経済新聞』2月21日付文化欄)
 森林での生活にあこがれを持つ都会暮らしの人にとってインターネットは欠かせない道具になりつつある。森林生活に関するリンク集では「田舎ナビ」(http://dns1.inaka.com/inaka/)がある。林業に携わりたい人は、全国森林組合連合会の「NW森林いきいき」(http://www.nw-mori.or.jp/)を。日本の林業の現状から求人案内、森林で働き、暮らすための手掛かりまで数多くの情報が掲載されている。林業に就職した人たちの体験談もネット上で集めることができる。社団法人全国林業改善普及協会のホームページ「山村回帰支援情報」(http://www.ringyo-fukyu-unet.ocn.ne.jp/)は地域や年齢などによって数百件の体験談が検索できる。

★なぜか証券部の記者がこれを書いています。兜町の動きを追いかけていると、きっと馬鹿馬鹿しくなって森林に目を向けたのでしょう。

●「めざせ故郷100万人支援、連合が提唱」(『朝日新聞』2月18日付一面)
 連合が音頭をとって100万人故郷回帰運動を繰り広げる。過疎化の進んだ農山村の活性化と、田舎暮らしにあこがれる都市住民の要望に応えるのが目的だ。リストラで失業した都市労働者の受け皿づくりも狙う。まず、全国の農産漁村でどのような人を欲しがっているのか、誰にでも引き出せる情報のネットワークづくりに取りかかる。希望する地域で働き、暮らせるように、地方自治体や農協が支援する体制もつくる。連合が提唱した企画だが、労組、農協、生協、消費者団体などでつくる「食料・農林漁業・環境フォーラム」が実行委員会を設立し、4月から実施する。(以下略)

★言い出しっぺは自治労から連合に出向して社会政策局次長をしている高橋公さん(通称ハムさん)。前にこの通信で連合の内部文書の概要をお知らせしましたが、いよいよ大新聞の一面に解説付きで記事が出て、本格的に動き出します。  ▲