農と言える日本・通信 No.28  2000-06-05      高野 孟



●次の鴨川集合日は7月1日〜2日です!

《報告》

 6月3〜4日の草取り大集合は、約30人が集まり、土曜日の午後に田んぼ4反歩の草取りを、日曜日の午前に大豆1反5畝ほどの種まきと烏除けの糸張り、サツマイモ5畝の畝造りと植え付け、3月に植えたジャガイモの一部の掘り出しを行いました。

 田んぼのうち3反は、今年初めて米ヌカ散布による雑草抑制・土壌改良・栄養補給の方法を取り入れ、散布がやや遅れたので効果が危ぶまれましたが(普通は田植えの1週間後に反当たり100キロほどを撒くが、ヌカの入手が遅れて2週間後になった)、それでも、ヌカを入れなかった別の1反歩と比べると、明らかに雑草の量が4分の1以下で、炎天下で膝近くまで泥に入りながら中腰で水面下の地表を掻き回す“地獄の草取り”作業が遙かに楽になったし、地表には厚さ1センチ程度のフワフワ・トロトロの土層が形成されていて、なかなか有効であるらしいことが立証されました(最終的には刈り入れてみなければ分かりませんが)。

 それにしても、農作業はともかくも人手です。土曜日は現地側の皆さんも含めると35人ほどで草取りに取り組んだので、米ヌカ効果もあったとはいえ、3時間半ほどで4反歩の草取りが完了して、事前の「とても半日では終わらないだろう」との予想は見事に覆されました。土曜日だけで帰った方もいたので、日曜日は20人ほどでしたが、それでも、大豆だけ出来ればいいかと思っていたのに、サツマイモの植え付けも出来て、さらにジャガイモも自分らで持ち帰る分だけ収穫することも出来て、大満足でした。

《次回》

 棚田トラストの会員の皆さんは、6月と7月の草取りに少なくともどちらかは参加することが“義務”づけられているので、今回不参加の皆さんは次回に参加して頂くようお願いします。もっとも、義務と言っても、一応そういう建前にしておかないとマズイということで、お忙しい方々も多いですから、出来るだけそれを守って頂くようにして、どうしても両方参加できない場合は、8月以降の日程にご参加下さい。

 一部には、6月と7月のどちらにも参加しないと「自然王国の人民裁判にかけられて死刑に処せられる」という噂が飛んで、ビビっている人もいるらしいですが、王国憲法には死刑もリンチも除名もありませんのでご安心下さい。また、トラスト会員でない方で農林業ボランティアを体験してみたいという方がいれば、もちろん参加自由ですので、出来るだけたくさんの方々を誘って来て頂ければ幸いです。

 次回は7月1〜2日で、私と数人のトラスト会員は「モンゴル・オペラ鑑賞ツァー」のため参加できませんが、皆様、よろしくご参集下さい。

●8月に鴨川自然王国で「里山帰農塾」を開催!

 鴨川自然王国では、初めての試みとして、8月18〜23日(5泊6日)の「里山帰農塾」を開催します。定年帰農を考えている方、興味はあるがきっかけを掴めないでいる方を中心に10名限定で、藤本敏夫国王の「農的生活原論」、高野の「新しいライフスタイルとして里山生活」、福井訊理事の「村人の好きなこと嫌いなこと」などの講義、福井・石田三示・小原利男各理事による農作業・山林作業・炭焼作業の入門体験、南房総や鴨川の見学などを中心としたメニューをみっちりこなしつつ、それを通じて、この地区で田畑を借りて週末農業をやってみたい、さらに将来的には移住したいなどの希望者にはご相談に応じる予定です。詳細は近くご案内しますので、これまで王国の農林業ボランティアやトラスト会員として活動してきた方々も積極的にご応募下さい。

●次の帯広集合は8月25〜27日です!

 前回5月帯広集合は、4月末から1カ月滞在して馬の世話をした半定住状態の仲野茂(ロックバンド“アナーキー”リーダー)に加えて、5月25日から高野と生江有二(ライター/TVリポーターで仲野の兄貴役、高野・仲野とは草ラグビーチーム「ピンク・エレファンツ」のメンバー)が、26日は近藤憲明(毎日新聞)とその友人の浅井健太郎(講談社)が、27日には札幌から後藤良忠(北海道うまの道ネットワーク協会専務理事)が参加して、牧場遊び、子馬調教、新得のジャックさんの「ウェスタン・ヴィレッジ・サホロ」での野外騎乗などを楽しみました。その一端は、私が『乗馬ライフ』で連載中の「十勝森林警備隊“馬”日記」の次号原稿で紹介しました。また現地側の世話人でデザイナーの吉田政勝さんの「モモの仲間通信」最新号にもっと詳しい報告があるので、興味のある方は吉田さんにメールで送付を頼んで下さい(masaka@crocus.ocn.ne.jp)。次の帯広集合は8月25〜27日です。奮ってご参加下さい。高野原稿は次の通り。

《十勝森林警備隊“馬”日記-7》

 5月下旬の週末に、5〜6人の仲間と共にまた帯広郊外の「リバティ・ファーム」を訪れて、3週間前に生まれたばかりの子馬と対面した。父親は元気がよすぎて乗り手から敬遠されがちのダーキーで、母親はこの牧場のヌシ的存在であるドリームラージ(体が大きいので「夢は大きく」という意味も重ねてそう名付けられたが、われわれは普段「ユメ」と呼んでいる)である。子馬は母親そっくりの栗毛で、馬房の中で細くて長い脚を突っ張るようにして母親の乳房に吸い付いていた。名前は、牧場主の平林英明さんの発案で「アラシ」と決まった。

 去年、同じダーキーとブロンソンとの間に生まれた「ヒメ」は、自然放牧状態で生まれ育ったせいか野性味が強くて、いつまで経っても人に触られるのも嫌がった。今年2月に牧場に行ったときには、初めて無口頭絡を着けるのに、乗馬も狩猟もその他アウトドア全般も何でもござれの地元のベテラン=ガンちゃんを中心に私を含めて3人がかりで首にロープを掛けて抑えつけて、30分がかりの大騒ぎになった。ところが、馬房で生まれた「アラシ」は初めから人なつこくて、人を恐れるどころか自分のほうから寄ってきて、首筋を撫でてやると気持ちよさそうに目を細める。馬にもそれぞれ性格や気性の違いがあるのだと、改めて思い知った。

 母親のユメを馬場に連れ出して乗り回すと、アラシもその前後をピョンピョン跳ねながらまつわり付いてきて、とても可愛らしいのだが、それで母馬の歩調が乱れて乗り手は乗りにくい。

 さて、そのヒメは、無口を被せるのにあれほど激しく抵抗したのに、いったん付けてしまうとそれを素直に受け入れて、触られるのを嫌がらなくなったし、人の言うことをよく聞くようになった。自分が一人前として扱われるようになったのを喜んでいるのかどうか、顔つきも急に大人びてキリリとした感じになった。無口を着けただけで、馬の心にどういう変化が生じるのかはうかがいしれないが、ともかく3カ月ぶりに会ったヒメの成長ぶりには感心した。

 そこで、今回は、二歳馬でまだ乗り回すには早いにしても、鞍やハミに少しずつ慣れさせようということになり、仲間の一人で馬扱いが巧いロック・シンガーの仲野茂が調教師を買って出た。母親と離すと不安がるかもしれないので母娘2頭だけを馬場に入れて、まず母親を柵に繋いで、その隣にヒメを繋いだ。仲野がいろいろ話しかけながら馬体を撫でて落ち着かせ、ゆっくりと鞍を乗せる。嫌がって振り落とす馬もいるらしいが、ヒメはまるでこの時がいずれ来るのを待っていたかのように落ち着き払っている。腹帯を少し締めても驚きもしない。

 次は問題のハミである。どんな馬でも、あんな金属棒を口の奥まで押し込まれて拘束されて嬉しいはずがない。慎重な上にも慎重に、まずハミと手綱の全体を間近によく見せて「これを今からお前に着けるんだからね」と言い聞かせてから、素早く頭絡を被せてハミを噛ませると、意外や意外、これまた何の抵抗もなく受け入れて、よく機嫌の悪い馬や慣れていないハミを噛まされた馬がやるように、首を振りながら舌でハミを押し出そうとするような動きも一切しない。

 息を詰めて見つめていた仲間たちから、

「何だこいつ、珍しいくらい素直じゃないか」
「無口を着けてから人格(馬格?)が変わったんだよ」
「頭がよくて物覚えが早いから、きっといい馬になるなあ」

 などと一斉に安堵と驚嘆の声があがる。

 そこで今度は、私が母親のブロンソンに乗って前をゆっくり歩いて、後ろから仲野が引き綱を引いてヒメを歩かせて馬場を回った。おおむね順調に付いて歩くので、次には単独で引き回すと、時折、周りの人の動きや犬の吠え声が気になるのか、立ち止まって脚を突っ張るが、声を掛けながら引き綱をしっかり引くとまた歩き出す。だんだん慣れて、こちらが軽くジョギングすると一緒になって速足をする。

 本当は初日の今日はそこまでにするつもりだったが、余りに順当に来たので、「ちょっとだけ乗ってみよう」ということになり、まず体重の軽い仲野が乗って、母馬の後について歩かせた。彼より体重が10キロほど重い私が乗るのはどうかと思ったが、我慢しきれずに乗せて貰った。「重くてごめんね」と言いながら慎重にまたがったが、それでもヒメはやや脚を踏ん張るようにして、「重いなあ」というような目をして後ろを振り向いた。まだ骨格が出来ていないから、後ろ脚が長すぎる感じで鞍全体が少し前に傾いている。一周だけして下りて馬装を解きながら、皆で取り囲んで「お前は利口だよ」とか何とか、さんざん誉めあげてやった。ヒメはご褒美の燕麦をモグモグしながら「私だってもう大人ですからね」という目をして見せた。

 ただ馬に乗るというだけでなく、このようにして生まれた時から付き合って、次第に成長しながら人と馴れ親しんでいくプロセスに参加できるのは、牧場暮らしの大きな楽しみである。来年の今頃は、外乗に乗り出せるいい馬になっているに違いない。
 
木曜と金曜は、そうやってヒメの早めの成人式をしたり、東京から来た仲間のうち初心者に乗馬を体験させたりして過ごした。しかし、今はユメもブロンソンも子連れだし、ダーキーは元気を抑えるために去勢手術をしたばかりで養生中だし、外乗に出るわけにいかない。そこで土曜日は、帯広から1時間弱の新得でウェスタンビレッジサホロを開いているジャックさんのところへ遊びに行った。ジャックは、元は「リバティ・ファーム」で平林さんらと共に馬に乗り始めた十勝のトレッキング文化の先駆者の一人で、日高山脈の狩勝峠からサホロ岳にかけての山麓にいくつもの野趣あふれる外乗コースを開発している。

 その日は夕方から帯広で別の予定があって余り時間がなかったので、私と仲野と札幌から来た後藤良忠さん(北海道うまの道ネットワーク協会専務理事)は、ジャックの案内で山の中を駆け回る1時間コースを、初心者の皆さんは森の中をゆっくり散策する20分コースを体験した。十勝平野を遙かに見下ろしながら、車はもちろん人にも絶対に出会うことのないだろう山野を走っていると、遠くから鹿の一家がこちらを不思議そうに見つめていたりして、短時間ながら久々の外乗を堪能した。

 これから秋まで、北海道はこれが日本とは思えない雄大な自然の中で外乗を楽しむ季節。「日本のロッキー」と言われる日高山脈を思い切り走りたければジャックさんのところへどうぞ!

●『乗馬ライフ』を定期購読しよう!

 私が『乗馬ライフ』という隔月刊の雑誌に連載エッセイを書いているのは、同誌の発行元であるオーシャンライフ社のオーナーより当事務所の西城鉄男に対して個人的に誌面刷新についての相談があったことがきっかけです。同誌は、前は乗馬クラブの業界誌ふうのところがあって余り面白くなかったですが、昨年8月号から内容・デザインとも一新して“文化としての馬”ということを意識したなかなか充実した中身になって、部数もかなり伸びていますが、経営的にはイマイチで、宿願の月刊化を果たすには至りません。こういう雑誌を育てなくてはいけないので、馬に少しでも興味のある皆さんは是非、定期購読をお願いします。ホームページはwww.oceanlife.co.jp/johba/、EメールはLEN07414@nifty.ne.jp、電話は03-3562-2266です。



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