農と言える日本・通信 No.43  2000-12-27      高野 孟


●●阿蘇大草原・野焼き&馬の道プロジェクト/続報●●

 前号、前々号の「九州訪問記」の中で、阿蘇大草原の“野焼き”へのボランティア参加と、それに関連して、野焼きに必要な“輪地切り”という10メートル幅の防火帯を「馬の道」として整備するという佐藤誠=熊大教授の構想について触れました。その後、佐藤さんからは、来年の野焼きが3月11日に内定したこと、馬の道の整備構想が具体的に動き出したことについて知らせがあり、また佐藤さんと旧知の札幌の後藤良忠さん(財団法人・北海道うまの道ネットワーク協会専務)からは、高野共々3月の野焼きとその後の乗馬コース試乗に参加する旨、連絡がありました。さらにこれも佐藤さんと旧知の松木洋一さんからは、阿蘇の牧草地の入会権について前々から研究していること、長野県伊那谷に「馬の里」建設を進めていることについて便りがありました。「馬の里」の立ち上げ方はなかなかすごくて、十勝でも阿蘇でも大いに参考にする必要があると感じました。以下、3人からのメール要旨を紹介します。

■佐藤誠さんより「野焼きは3月11日です!」

 ご多忙の中、阿蘇までお越し下さいまして大変有り難うございました。黒川温泉での大討論・宴会は久方ぶりに心が高揚しました。

 阿蘇の原野と久住でのプロジェクトご提案に心から感謝です。あの後、輪地きりに馬を放牧してインパクトのあるツーリズムラインを設定し、21世紀型の共生草原の維持・活用モデル実験とするためのの具体策について、現地農業者にあたり、また(財)阿蘇グリーンストックの常務理事会にかけて相談しました。

(1)スキーム──南小国町役場も巻き込んで、環境庁の平成13年度草原景観調査事業と絡めて馬の放牧による草地管理の実験を行い、それを、九州農政局の「馬の道」構想と結びつけていきたい。

(2)コース──阿蘇と久住の接点にある瀬の本高原(赤川温泉のすぐ東、久住山麓の交通の要所)で仲間が経営する農家レストラン「八菜屋」を起点の「駅」と設定し、そこから(西へ)南小国町がやっている草原マラソンのラインをそのまま活かした馬の道を、先日観ていただいた新設農道沿いに延ばし、阿蘇町のグリーンストック拠点(すでに13ヘクタールの用地を財団で所有しています)を第2の「駅」にする。さらに、起点の「駅」から反対方向(東南)に、阿蘇郡産山村上田尻の牧野(仲間がいます)を経て、久住町営牧場(山田課長がいます)に第3の「駅」、さらに(北)隣の九重町には名門乗馬クラブ「エル・ランチョ・グランデ」があるので、それを第4の「駅」とすれば、エンデュランス競技も常時開催できますし、ツーリズム振興・農村活性化に大きなインパクトを与えるでしょう。

(3)手始め──まず手始めに、この24日に「道産子オーナーの会」を改組して「阿蘇ポニークラブ」として、馬で草原維持する会員をメディアを通じて広く募集する作業に取りかかることにしました。月3000円のポニー(ご存じの通り、道産子など130センチ以下の馬はホースでなくポニーと呼ばれていますが、女性や子供に受けるシェトランド・ポニーや大きな犬くらいのポニーも含めて)維持会員を募ります。

(4)放牧実験──次に、平成13年度の環境庁調査事業として、最初の「駅」となる農家レストラン「八菜屋」から、4キロ続く土塁沿いにわれわれ所有の道産子を放牧実験しようという話になりました。今年の環境庁調査では「モーモー輪地切り」という形で牛の周年放牧によるグリーンベルト維持の実験をやり、あわせて山羊によるものも行いましたが、グリーンストック財団で環境庁とは別にやった道産子によるベルト造出の方が圧倒的に成果があがりました。このことを、年内に地元紙が書きたいと申し入れが来ていますので、馬の道構想も併せてアピールしようかと思います。環境庁調査プロジェクトの3つの小委員会には財団からメンバーを出し、親委員会には小生がいますので、来年度には正確に、馬・牛・山羊の性能比較実験をやって、馬を浮上させます。

(5)野焼き──野焼きは来年3月11日(日)に内定しました。これまで現地事情で年毎に日取りが変わるので、都市からのボランティアを募集してイベントを組む上で支障があったのですが、財団の提案で来年からは阿蘇郡広域町村会が事前に日程を設定することになったものです(雨が降ると次の週に延期)。そこで来年は、野焼きボランティアを増員し、さらにその後に参加者で、輪地切りのラインを意識して、真っ黒になった大地をホーストレッキングすれば、メディアも大きく取り上げてくれるでしょう。高野さんが、「乗馬ライフ」等で事前にアピール下されば、小生は阿蘇の乗馬クラブに参加方を呼びかけます。小生たちの道産子は調教不足ですし、お説のように地元クラブとの連携が望まれます。

(6)農水事業との結合──実は、上述のコース予定のラインは、九州農政局が数年かけた調査に基づいて「馬の道」を想定し、大きな地図にも落として農水事業にすべく打ち上げている計画に近似しています。環境庁調査をうまく農水事業に繋げば、かっての調査・研究が日の目を見ることになり、草原維持と本格ツーリズム事業をかねた馬の道(駅)を民・学・官パートナーシップ事業として展開することが可能でしょう。

(7)後藤さんとの連携──高野さんと出会って、小生、大変喜んでいます。また、北海道うまの道ネットワーク協会の後藤専務のご参加の件、大変有り難く、今後、道内で乗用馬を生産して本格的な乗馬文化を創造していきたいものです。北海道ツーリズム大学には乗馬学科を設け、インストラクター養成をします。また、阿蘇の馬の道のほうは、今人気の黒川温泉の旅館主などにも呼びかけて、経営やマーケット面で安定したシステム作りをしたいと愚考しています。▲

■後藤良忠さんより「野焼きイベントに参加します!」

 メールを拝見いたしました。3月10日から13日までの熊本行きの件は了解し、スケジュールに登録しましたので報告いたします。

 ツーリズム大学は、私も「北海道エコツーリズムを考える会」のメンバーとして概要は知っていましたが、高野さんが講師に加わるとは、うれしい限りです。色々なアイデアが実行に移されそうですネー。ただ私としては、何でも十勝というのに若干引っかかるのです。網走も、釧路も何かしてやらねばとの思いがあります。最近、当協会に障害者乗馬受入施設と専門学校の乗馬科増設の話が同時に持ち込まれ、私案として両者のドッキング構想を進めていますが、これを十勝でなく道央近辺の恵庭・長沼に持っていくことを想定しています。もう少し話が進めば、高野さんからご支援をいただく必要がでてきますので、その時は宜しくお願いいたします。

 鴨川自然王国への馬導入については、3月にお会いする時までに当方の具体的な計画を作成しますので、そこから検討して下さい。▲

※[高野注]後藤さんの協会の活動についてはホームページ=http://member.nifty.ne.jp/uma-net/をご覧下さい。

●松木洋一さんより「伊那谷に“馬の里”を作ります!」
 
 毎回楽しいお知らせを有り難うございます。阿蘇は僕の牧野組合の入会権研究のフィールドの1つです。佐藤誠さんとは阿蘇グリーンストック財団設立以来の繋がりで、昨年の日本農業法学会のシンポジウムでは共同報告をしました。彼は主としてツーリズムを実践的に研究していますが、僕の方は主として牧野組合の市民的入会権のシステムについて検討しています。阿蘇の日常的な運動と事業化の進展を阻む様々な地域的な構造問題があり、地元主導の主体者の形成が大切になっているようです。今年はオランダの共同研究者とともに3月の野焼きに参加しましたが、大変緊迫感のある作業でした。9月にも佐藤さんとともに他のオランダ研究者をつれて小国に遊びに行きました。年に何回か行きますのでそのうちご一緒しませんか。

 さて、長野県伊那谷の飯島町に有限会社フラワーセンターを設立しました。農業者、地元企業家、農協関係個人、生活クラブ東京、東京の流通企業家、それと小生が、従来の第3セクターによる農業公園でなく、町と農協から施設をそっくり経営受託する組織です。来年にはこのセンターを中心に新たに「馬の里」(伊那谷の馬の文化の復興を図る会社)を設立し、中央アルプスと南アルプスの山麓をトレッキングできる乗馬事業とRDAJapanとの共同で障害者乗馬の施設と研修センターを建設する計画を進めています。

 障害者乗馬用として木曽馬を考えたのですが20〜30頭を確保できないため、モンゴルから導入を昨年試みました(飯島町はモンゴルのウランバートルと姉妹都市で、現地で町民業者が馬肉肥育牧場を経営し、高級馬肉を輸入しています)。結局、動物検疫に引っかかり輸入できなくなったため、道産子を20頭調達する手はずを進めています。

 飯島町周辺は日本サル、鹿、熊、イノシシなど農林業被害が問題になるほど多く生息しています。野生動物との共生システムの開発をも事業として計画しています。学生の実習地として設定し、会社の経営事業として環境教育事業を含めることになっています。学生は長期にモンゴルのパオ(3基導入済み)に宿泊できるようにする計画です。僕のところの食料自然管理経済学教室の分室をおくことになり、来年からカリキュラムを試行する準備を進めています。もともと駒ヶ根市周辺は20年来の営農集団研究のフィールドでして、地元の人たちは昔から中央官僚をうまく動かす理論と実践手法に長けています。それだけ厳しい条件不利地域の歴史があるからでしょう。来年の1月からは日参的に行き来することになりそうです。▲

※[高野注]松木洋一さんは日本獣医畜産大学・動物科学科・食料自然管理経済学教室の先生。藤本敏夫国王の友人でもあって、今年秋には鴨川で藤本、松木、高野ほか数人で農業の将来についての「秋の夜長の放談会」を持ったりしています(鴨川自然王国ホームページの中に概略紹介があります=http://www4.ocn.ne.jp/~knk/tandt/houdan1/content.html)。■