農と言える日本・通信 No.5   1999-08-11                                 高野 孟

■次回鴨川は9月11(土)〜12(日)稲刈り予定!!!帯広は8月27(金)〜29(日)!!!


《鴨川報告》
●お祭りに約20人が参加して大いに盛り上がりました!
 8月7日は、成田、相模と並ぶ関東三大不動様の1つとして知られる「大山不動尊」の大祭で、大山の6つの地区がそれぞれ朝から御神輿を出して11時頃に不動尊の階段下に集結、ただ担ぐだけでも重い大きな神輿を、角度45度・約百段の狭い階段を前に綱をかけて引きながら担ぎ上げて、本殿前でまたひと渡り揉み回るという勇壮なもの。6地区と言ってもそのうち3地区は、高齢化で担ぎ手がいなくて神輿が出せず、1地区では館山の自衛隊30人に助っ人を頼んだという中で、我が「平塚地区」は、鈴木(自治労)、高野、木村ら東京組数人を含めて白装束・白足袋に鉢巻き・肩布団の出で立ちも凛々しい約50人の担ぎ手を確保、小さん門下の柳家三寿師匠や若い女性3人組はじめ応援団に鼓舞されて堂々の一番乗りで、大いに気勢を上げました。夜は夜で、今度は本当に6地区から大きな山車が出て小学校の校庭で笛と太鼓の大競演という、まあなかなか本格的なお祭りで、その後の鴨川自然王国としての“反省会”も深夜まで盛り上がったのでした。翌朝は、帰る人、三越本店の「棚田パノラマ展」に行く人、陶芸教室に参加する人など様々な中で、藤本国王、小原理事、新井(はじめ)、高野の4人は健気にも、山賊小屋に隣接する三井さん所有の森が荒れ放題だったのを、三井さんの了解を得て整備に手を着け、一番手前の部分の薮を払い倒木を切るなど2時間程の作業に取り組みました。


《会員動向&リスポンス》
▲「会員」と言っても別にこの通信を送っている方々とその周辺という程度の意味です。
●旭油脂の「ひまわり油」活動を日経夕刊が紹介!
 日本経済新聞8月9日付夕刊第1面の「よみがえる風景」で、北海道東神楽町・長原農園の20万本のひまわり畑のカラー写真と共に、そのひまわりの種を使って「ひまわり油」を製造している旭川市の旭油脂(大塚滋社長)のことが紹介されています。全文次の通り。
「幼い日の夏の思い出には、背が高いヒマワリが揺れている。トンボがとまっていた。アブラゼミの鳴き声、それに絵日記。連想が次々に広がる。
 澄んだ真っ青な空と地平線まで広がる大地。夏の北海道にはことのほかヒマワリが似合う。休耕田などを活用して大群落を作り、観光の目玉にする地域が増えている。旭川市に隣接する東神楽町でも、長原農園の20万本が太陽の光を思い切り浴びて咲き誇る。同農園は7月下旬から1カ月、巨大なヒマワリ迷路を中心に4.5ヘクタールの畑を観光客に開放している。
 たった1本咲いているだけで、庭先をパッと明るくするほど存在感の大きい花が、群生となると、ただ圧倒される。無数の笑顔に迎えられているようで、ヒマワリ畑を前にした人には自然とほほえみが浮かぶ。畑に迷い込み、あの夏の一日が帰ってくる。
 開花が終わると、種子は「ひまわり油」を製造する旭油脂(旭川市)に出荷される。『ビタミンEが豊富で香ばしく、油のうまみもあります』と、同社の大塚滋社長。外見が元気の固まりのようなヒマワリだが、その種子や油も健康食品ブームで人気を呼ぶ。同社は種子を安定確保するため、道内各地の農家と無農薬栽培の委託契約を結んでいる。
『種子は収穫してみないと油がよく取れるか分からないけれど、花は確実に綺麗に咲きます。皆さんの喜ぶ顔が見られる限りは栽培を続けたい』。長原農園の長原稔さんは、70歳の笑顔をヒマワリ畑に向けた」
      *               *
▲まあ「よみがえる風景」というシリーズ・タイトルだから仕方がないんですが、この記者、やや文学調の情景描写に溺れて、農家がひまわり畑を1反歩作って種を売っても4万円ほどの収入にしかならない現実があって、だから食用油の原料がほとんど全部輸入になってしまっているからこそ、大塚社長が足を棒にして「北海道の大地に根ざした食と農を興しましょう」と農家を説いて歩いて、ようやく何軒かと委託栽培契約が成り立っているのだということを書いてくれていないのです。私は今年2月に旭川で大塚さんと出会ってその考え方と活動に大いに共感し、帯広の仲間である平林さんやその隣に200町歩の広洋牧場を持つ和田さんたちと相談して、5月に広洋牧場の一角の数町歩にひまわり畑をつくりました。また種の一部は藤本さんが持ち帰って鴨川に撒き、量は少ないですがちょうど今みごとに咲いています。ちなみに、その大塚さんの「ひまわり油」は本当においしいです。現状ではまだ生産量が少ないので必ず手にはいるかどうか分かりませんが、試してみたいという方は、フリーダイヤル0120-312-333、またはE-mail:seigi@hokkai.or.jp まで。同じく北海道産の原料による「大雪からし」も、えっ、からしってこんなにおいしいものだったの?と驚きます。

●篠塚さんと『五体不満足』の乙武くん
 帯広も鴨川も何度か来ているエス・ピー・アイの篠塚恭一さんからの近着メール。
「高野さん。御案内有り難うございます。今頃は、鴨川で楽しい仲間と美味しい酒を飲まれている頃と思います。今朝迄伺えるように考えていましたが、残念ながら今も会社で仕事をかたづけている最中です。天気もよさそうですので、今回伺えなかったメンバーの分迄、皆さんで楽しまれて下さい。
 今年は仕事が続いており、御案内頂いた帯広の時期の月末も、高齢者福祉視察でフィンランド、デンマークへ出張です。北欧へはほぼ10年ぶりEU加盟後は初めてなので楽しみです。馬には乗れそうにないですが、勉強してきます。では、農といえる日本続編を楽しみにしております。
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篠塚 恭一(Kyoichi Shinozuka)
K-shino@aelclub.net
http://aelclub.net              」

▲篠塚さんは、高齢者や障害者を家に閉じこめておかずに、ツアーやアウトドア活動に参加させるための旅行やイベントの企画を先駆的に手がけてノウハウを蓄積して来ていますが、日本ではまだ社会的にやや時期尚早でビジネス的には苦労をしているようです。大ベストセラーとなった乙武洋匡君の『五体不満足』のP.227以降に、彼が97年に「ユニバーサル・デザイン」をテーマとしたシンポジウムの実行委員長を務めた際に篠塚さんと出会った話が出てきます。ユニバーサル・デザインとは、バリアフリーを一歩進めて、障害者などのために特別の施設や設備を作ろうというのでなく、初めから誰もが安心して利用できる街づくり・空間設計をしようという考え方のことです。   
「シンポジウムでは、SPIという会社が事務局というたいへんな仕事を担当してくれた。もともとは、添乗員の派遣などをする人材派遣会社だったが、それが発展していくうち、障害者や高齢者の旅も扱うようになっていったという。そのSPIの社長が篠塚さんだ。社長というと、どうしても年輩の方を想像してしまいがちだが、彼はまだ30代の若さ。見た目もハンサムでカッコよく、『頭の切れそうな人だな』というのが第一印象だった。ミーティングを重ねていくうちに、すっかり打ち解けることができ、飲みに行くようにもなった。一緒にぶどう狩りに行くなど、ご家族ともなかよくなる。次第に信頼が生まれ、ボクは図々しくも『頼れる兄貴分』として彼を慕っていた。仕事に取り組む真摯な姿勢。家族を大切にする温かさ。彼から学んだものは、数限りない。篠塚さんを始めとした、多くの出会い。これだけでも、実行委員長というチャンスを与えてもらったことに感謝しなければならないだろう」
 ちょっと誉めすぎですが、篠塚さんが仕事を通じてたくさんの高齢者・障害者に励ましを与えているのは事実で、そのような仕事と帯広や鴨川の自然を結びつけられないかと考えくれているわけです。

●梨元勝さん、津田昭治さんからお便り!
 帯広自然王国の体験者であるTVレポーターの梨元勝さん、同じく体験者でログハウス共有会員でもあるギタリストの津田さんからお便りです。お2人とも、藤本、鈴木、高野らと一緒の昭和19年生まれの会のメンバーで、津田さんは高野の高校同級生でブラスバンドも一緒でした。
◆8月の十勝ツアーの件ですが、テレビ出演が入っているため出席できません。申し訳ありません。次回は出席したいと思いますのでまたお誘い下さい。梨元勝
◆ご案内ありがとうございます。最近何だか仕事が立て込んでおりまして、8月27〜29日は生徒40人を連れて六日町でギター合宿をやる日と重なってしまいました。時期を外して一度行きたいと思っております。家内は鴨川に興味を持っております。なかなか参加できず残念ですが、今後もイベントのお知らせは是非お願い致します。津田昭治



《視点》
●“第3次兼業農家”を増やして農業人口を10%にしよう!
 今回の新農基法をきっかけとして、プロ農家=生産者は有機、環境保全型、持続可能型の農業を目指してそれぞれに転換を進めるわけですが、藤本敏夫さんは、それだけではなくて、都市住民=消費者もまた何らかの程度と形態で「農」と関わりを持つような「農的生活」を始めるべきだということを言っていて、私は自分自身を含めてその後者の形を“第3次兼業農家”と呼んで、それを含めて農業人口を全人口の10%まで増やすことを当面の目標とすべきだと提唱しています。

◆団塊世代が先頭に立って農業人口増加に貢献すべきだ!
 全共闘世代の集まりで『全共闘白書』なども刊行している「プロジェクト猪」の結成5周年集会が6月下旬に開かれ、どうもみなさん、ガイドラインで世の中おかしいし、中高年はリストラの嵐で大変だしと、暗い話をしているので、記念講演に立った私は、違うんじゃないか、と。リストラは、実際にそれに遭った個々人にとっては大変に違いないが、大局的には、今どき飢え死にするわけじゃなし、むしろ今までのしがらみから自由になって新しい生き方を求めるチャンスであって、この際、全共闘世代がどんどん農業に進出してみんなで農業人口を増やす大運動をやったらどうか、というようなことを言いました。後のパーティでいろいろな方が「今日の話は面白かった」「私は実はこんなふうにして農のある生活を始めている」と声をかけてくれました。プロジェクト猪のリーダーの高橋公さん(自治労→連合)も「連合と農協が組んで定年帰農を推進するプログラムを計画中」だそうで、それについて情報があればまたお知らせします。

◆新しいフロンティアに目を向ければリストラなんか恐くない!
 また7月末には人権情報センターと全国赤ひげ弁護団の主催によるシンポ「大不況時代のリストラを迎え撃つ」が行われ、中村敦夫参院議員の司会で、高見裕一(らでぃっしゅぼーや)、高井晃(労組東京ユニオン)、中野麻美(弁護士)のみなさんと討論しましたが、ここでも私は、違うんじゃないか、と。確かに、不当なリストラに遭っている人を救済し支援することは必要だが、そういう抵抗型に留まっていては解決はなく、(1)グローバル化によって日本の勤労者がアジア・第3世界の低賃金労働者と直接の競合関係に入った中では、賃金=カネだけを求める価値観を変えなければ絶望するばかりであること、(2)産業社会が終わって製造業大企業が推進力となった成長経済も過去のものとなっている以上、過去の雇用を守ろうとするよりも、中小・ローカル企業、福祉・介護のNPO、農業など新しい雇用と仕事のフロンティアに目を向けるべきであること、(3)労組も、大変だと言っていても仕方なく、新しい状況に個々人が対応できるよう、起業家や農業者の養成や再教育・職業訓練のプログラムを用意することが必要であること――などを述べました。

◆これからの日本経済の前衛・中衛・後衛!
 以上のようなことを、私が定期執筆しているオンライン雑誌『Navigator』最新号で日本経済の今後を論じた際、要旨次のように書いた(同誌にご関心ある方はhttp://www.mediaforest.com/navi/ へ)。
「私はこれから21世紀初頭にかけて面白くなる領域を前衛・中衛・後衛の3つに分けてイメージしている。
 前衛は、日本がこれまでの産業社会を通じて50年、100年かけて培ってきたモノづくりの智恵を活かす先端技術分野……(中略)、中衛は、成熟社会ゆえの福祉・介護サービスの(内容と提供形態=主体の)多様化や、情報ネットワークの発達による流通体系の変革や、自由時間の増大やNPOなど非利益追求型のビジネス形態の普及に伴う仕事感覚・金銭感覚の転換といった、金子郁容らが言う“ボランタリー経済”への流れの中で生まれつつある無数のフロンティア……(中略)、後衛は、農業の再生である。農業基本法から3分の1世紀を経て、いまや農業人口はほぼ半分近い340万戸、人口比6%に減り、そのうち66%は『農業を主としない』第2次兼業であるという体たらくではあるが、今や人々は、金さえ払えば食の安全も健康も環境も確保できると思わされていたのは実は大錯覚だったことを思い知って、ここでもまた、あなた任せでなく自分で出来ることを手がけることを通じて問題を解決しようという滔々たる流れが生まれつつある。田舎暮らし、定年帰農、家庭菜園、グリーン・ツーリズム、産地直送といったものが1つの流行となっていて、それはしょせんは擬似的なものではあるけれども、そういう半身の形も含めて多くの都市住民が“農”と少しでも関わりながら生きることを選択することは積極的な意味があり、それらを“第3次兼業農家”と位置づけることも可能だろう。他方、既存のプロの農家は、いままでの補助金漬けの自堕落から覚めて本格的な有機農業・環境保全型農業さらには今回の農基法改正で法的意義付けを得ることになった持続型農業を指向していく。それらが相まって、比較的短期間に農業に携わる人口を10%以上に持ち上げることは不可能ではない」
▼次号の「定年帰農」のためのブックリストも参照のこと。



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