農と言える日本・通信 No.52  2001-05-29      高野 孟


●鴨川の田植えが終わりました! 6月2〜3日は草取りです!

田植えスタイル 鴨川自然王国の田植えは、今年は石田三示さんの田んぼのうち3反3畝を「棚田ト ラスト」として借りて、5月5〜6日、約40人が集まって賑やかに行われました。今 年も、イナミズゾウムシの被害を防ぐための苗床段階での少量の農薬使用だけで、除 草剤は一切使わない超低農薬で、その代わりに田植え1週間後に田んぼの水面に米ぬ かを散布する「米ぬか除草法」を採用しました。昨年は、米ぬかの入手に手間取って 散布が遅れてしまい、それでも一定の除草効果はありましたが、今年は三示さんがタ イミングよく撒いてくれたので、あの炎天下の草取りの重労働がさらに楽になるので はないかと期待しているところです。鴨川自然王国= http://www.shizen-ohkoku.smn.co.jp/

 その草取りの第1回は6月2〜3日です。トラスト会員の皆さんは、草取り2回の うち最低1回は参加するのが義務ですので、よろしくお願いします。

 写真は今年の田植えスタイル。腿の中程までの長さがある「田植え足袋」は、都会周辺のホームセンターでは売っていない、なかなかの逸品。両脇上端の穴にゴムひもを通して腰から吊してずり落ちるのを防ぎ、足首にはゴムバンドを十字に掛けて足が泥に取られて脱げそうになるのを防ぐのです。

 米ぬか除草法のサワリについては、来月の『おとなぴあ』(ぴあの大人向け文化情 報誌で通販のみ)で連載中の「エセ田舎暮らし耽楽記」第14回で触れたので、原稿の その部分を紹介しておきます。

 今年も除草剤は一切使わず、その代わりに田植え1週間後に米ぬかを散布する「米 ぬか除草法」を採ることにした。これは近年、各地で試みられているやり方で、どう もまだよく分かっていないのだが、米ぬかによって田に張った水中の光合成菌が増殖 して水が赤茶色になり、また土壌内の微生物が活性化して表面にフワフワの土が形成 されることにより、雑草が抑えられ、稲の根が丈夫に育って病虫害や日照不足に強く なると言われている。
 米ぬかは、もちろん玄米を精米すると出てくるのだが、玄米に含まれるビタミンと ミネラルを100とした場合、胚乳(つまり白米)に5、米ぬか(胚芽と表皮)に95の 割合になっているので、白米を食べるということは、ビタミンやミネラルのほとんど や胚芽に含まれる様々な機能性物質をわざわざ捨てて、デンプンだけを食べているわ けだ。だから玄米食が健康にいいということになるのだが、ややもすれば無駄にされ ているその米ぬかを田んぼに循環的に活用して稲そのものの生命力を高めようという のが、この方法である。

 来月のこの欄では、米ぬかの続きで、家庭での玄米・米ぬか活用法のことを書く予 定です。

●中標津モアン山の乗馬トレッキング大会に参加しました!

中標津を馬で走る 北海道東部の中標津には、推理・冒険小説作家の佐々木譲さんが3年前から仕事場 を構えて、脇の広大な牧場で馬を飼って、この地域に「馬のいる暮らし」を復興した いということで、近所の仲間の方々と一緒に「なかしべつ牧童クラブ」を結成して努 力を重ねてきました。このほど、モアン山と呼ばれる草地を中心に同クラブによる初 めての乗馬トレッキングのイベントが行われるとの知らせがあったので、出張先の名 古屋から、前夜札幌入り、当日朝に札幌・丘珠から中標津入りというやや強行日程で したが、お祝いの意味でこれに参加しました。

 その模様を『乗馬ライフ』で連載中のエッセイ「耳をすませば蹄の音」第3回で報 告したのでその原稿を紹介します。乗馬ライフ= http://www2.oceanlife.co.jp/johba/

 北海道の東端・中標津で5月27日、「なかしべつ牧童クラブ」による初めての乗馬 トレッキングが催されるというので、はるばる応援に駆けつけた。札幌からは、こう いうことになると必ず出没する後藤良忠さん(北海道うまの道ネットワーク協会専務 理事)、帯広からは「リバティ・ファーム」の平林英明夫妻と「十勝渓流塾」幹事の 吉田政勝さんもやってきて、地元の方々50人ほどと一緒に乗馬とバーベキュー、そし て夜は養老牛温泉で宴会と露天風呂を楽しんだ。

 会場となったのは、計根別農協の育成牧場の一角にある「モアン山」一帯。モアン はアイヌ語で「石が転がる」の意味で、漢字を当てれば「磊山」ということになるだ ろうか。瓦礫の上に乗った薄い表土が冬には地下凍結を起こして根を押し上げてしま うので一本の木も生えず、牧草と笹だけが滑らかに全体を覆っている。テンガロン・ ハットを伏せたようなその姿は、「昔、宇宙人が降り立って基地を作った」という伝 説があってもおかしくない不思議さを漂わせていて、地元の人たちも憧れに似た感情 をもって日々仰ぎ見ている。ところがそこは、6月から11月にかけて牛を放牧する大 切な牧草地の一部であって、普段は車はおろか人も立ち入ることは出来ない。それが 今回、農協の特別の理解と協力を得て、初めて乗馬トレッキングの舞台として開放さ れることになったのである。

 集まったのは、中標津に3年前に仕事場としてカントリーハウスを建てて、ほとん ど単身赴任状態で3頭の馬と暮らす推理・冒険小説作家の佐々木譲さん、酪農に携わ りながら地元の観光ボランティアガイドも務める瀬波秀人さん、接骨医で自ら馬を飼 育している武田信一さんら「なかしべつ牧童クラブ」の面々をはじめ、ご近所の「オ ホーツク・トレッキング同好会」の大西一郎さん、標茶町の自宅に広大な牧場を持っ て5頭の馬を飼う獣医の浦崎博行さん、それに牧場開放に尽力してくれた計根別農協 総務企画部の佐藤良文さんといった方々と、13頭の馬。午前中は初心者を含めてモア ン山周辺をゆっくり散策し、バーベキューのあとの午後は、浦崎さんをリーダーに経 験者4人の別班を作って牧野の丘陵を駈け巡った。

 北海道の日本離れした景観の中でも、ここはまた独特の趣がある。西から南にかけ てはどこまでも続く林野と草原が広がり、東から北には佐々木さんが「地球幼年期の ような」と表現する、我々の原始的本能を呼び覚ましてくれるような大地と山々の眺 望がある。曇りのち雨という予報が奇跡のように外れた快晴の空の下、草原を疾駆す る馬の背で「中標津には馬が似合う」と地元の人たちが言う意味を心底納得したのだ った。

 私が高い飛行機代に自腹を切ってまでこのイベントに参加することになったそもそ ものきっかけは、私が本誌の連載で帯広のリバティー・ファームでの馬遊びや十勝渓 流塾の集いについて書いているのを読んで、佐々木さんや瀬波さんが「こういうこと を中標津でもやりたいね」ということになって、昨年秋に帯広に私たちを訪ねてこら れたことである。お二人は、帯広市内で行われた私たちの「文化村建設構想」のイベ ントと渓流塾の飲み会に参加し、翌朝はリバティー・ファームで馬に乗って遊び、そ れを通じて「北海道のあちこちに“馬のある暮らし”を復元しよう」という話で大い に共鳴しあった。

 佐々木さんは3年前にここへ来たときから馬を飼い始めた。それに刺激されて瀬波 さんや武田さんは2年前には、町の海外研修派遣に応募して米国の乗馬施設を視察す るなど、研究を重ねてきた。そうした積み重ねが、帯広訪問でようやく発酵し始め て、昨年末に佐々木さんの馬場に集まる10人ほどのメンバーで「なかしべつ牧童クラ ブ」を発足させたのである。彼らが最初から目をつけていたのがモアン山で、農協の 佐藤さんに草地の開放を頼みに行った。佐藤さんも、子供の頃には裸馬に乗った体験 のある年代で、地元にトレッキングのコースを作ったらいいなあと考えていた。それ で、佐藤さんが農協内を説得して今回の画期的なイベントが実現した。

 瀬波さんが言う。「まず中標津の人たちが、この他のどこにもない景観をはじめ、 自分たちの地元にどんなすばらしい財産があるのか、再発見することが必要。そして それを活かすには、自分たちで馬を楽しむことだ。観光事業として儲からないかとい うのは、その後の話です」

 夜の宴会で佐藤さんは、年に3回くらいはモアン山で馬のイベントをやろうと確約 してくれた。中標津でまた1つ新しい馬文化が生まれつつある。
 

●ウズベキスタンに優れものの赤ワインがあった!

 昨年まで3年間続いたモンゴル・オペラ鑑賞ツァーのバリエーションで、今年はウ ズベキスタンの首都タシケントのオペラ劇場を訪れ、ついでに同国の世界遺産登録の 町をいくつか駆けめぐるということで、8月25日から100人ほどで出かけることにな りました(詳しくは本サイトのメイン・メニ ューに「ウズベキスタン旅情報」を新設したのでご覧下さい)。

 その旅行説明会の時に旅行会社の人が「ウズベキスタンではいいワインがあって、 日本でも1軒だけ輸入しているところがある」と言ったので、その日の内にインター ネットで調べたら、あった、あった。御殿場の「岡田屋/グルジアワイン専門店」= http://www2.wbs.ne.jp/~okadaya/というところで、グルジアのワインに惚れ込んで 手がけているうちに縁あってウズベキスタンに行き着いて「世界唯一の輸入代理店」 としてこれを売り出しているらしい、なかなかのこだわりの店。さっそく「シジャー ク」というそのワインを取り寄せたところ、これがなかなかおいしい。淡泊タイプ で、ステーキを食べるときの重くて癖のある赤が好きな向きには物足りないかもしれ ないが、私は思い赤が好きでないので、これが合う。和食や寿司でワインというとき には絶好だろうと思って、自宅の近所の寿司屋に持ち込んでご主人に飲ませたら「こ れはいいですねえ。うちでも置きたいくらいだ」と言っていました。

 テンシャン山脈の支脈の中腹で、年間日照320日とかの気候がブドウには好適で、 ワインだけでなく干しぶどうもとてもおいしいらしいです。世界には知らないことが たくさんあるんだと改めて実感しつつ、このイスラム文化の中心地が生んだ爽やかな ワインを楽しんでいます。ネット上で簡単に申し込めるので、みなさんもどうぞお試 し下さい。「高野から聞いた」と言って頂くと、グルジア人的な顔をした橋本店長は 認識してくれるはずです。▲