銃刀法の正しい理解

 我々のようにナイフはじめ刃物類を集めたり持ち歩いたりする者は、いちおう、銃砲刀剣類所持等取締法という法律によってその「所持」や「携帯」が規制されていることを理解しておく必要がある。刃物・ナイフに関連する条項を下に抜粋してあるが、法律の文章は普通の人間が読んでも分からないように出来ているので、総理府令などの規定も参照しつつ、要するに何を言っているのかを解説しておこう。

(1)刀剣類と模造刀剣類と刃物

 この法律で規制の対象となるのは、「刀剣類」と「模造刀剣類」と「刃物」の3つで、刀剣類は、許可なく「所持」することを、また模造刀剣類と刃物は、業務その他正当な理由による場合を除いては「携帯」することを、禁じている。

(2)所持と保管・携帯・運搬

 「所持」とは「そのものを自己の支配し得べき状態に置くこと」だそうで、その所持の様態として「保管」「形態」「運搬」などがある。「所持」は「所有」とは違うのであって、例えば、自分の持ち物でない他人のナイフを預かって持ち歩いても「携帯」とみなされる。携帯とは、屋内・屋外を問わず、所持者が手に持ったり、身につけたり、その他それに近い状態で現に携えていると認められる場合をいう。運転中の自動車の中に置くのも携帯となる。ただし日常生活を営む自宅ないし自室でそうしても携帯とはみなされない。

(3)刀剣類

 日本刀コレクターか武術家でない限り余り関係ないが、この法律でいう「刀剣類」とは、刀・剣・槍・なぎなたで刃渡り15センチ以上のもの、あいくち、それに「45度以上に自動的に開刃する装置を有する飛び出しナイフ」である。飛び出しナイフについては第2条に例外規定があるが何のことやら分からないので、まあ全部ダメと思ったほうがよい。「あいくち」は刃渡り15センチ以下という限定がなく、どんなに短くてもダメであることに注意が必要である。

 刀剣類であることの要件としては、形態が刀剣類であり(あたりまえじゃないか!)、鋼質性であって、人畜を殺傷する能力があるもの、と規定されている。

 これらを所持できるのは、第3条にあるように、公務である場合と、承認を受けた刀剣類の製作業者とその委託を受けた輸出業者であり、それ以外には、第4条にあるように、特別な場合に都道府県公安委員会で許可を得た者だけである。

(4)模造刀剣類

 「模造刀剣類」は、総理府令で、金属製であって、刀・剣・槍・なぎなたもしくはあいくちに著しく類似する形態を有するもの、または飛び出しナイフに著しく類似する形態及び構造を有するもの、と規定されている。「著しく類似する」とは、普通の人が見て本物と見分けがつかない程度ということで、一見して子供のおもちゃと分かるようなものはこれに当たらない。これについては、第22条の4で「携帯」を禁じられている。

(5)刃物

 刃物とは、人畜を殺傷する能力を持つ片刃または両刃の鋼質性の用具で刀剣類以外のものを言う。これについては「所持」は禁じられたり許可を受けることを求められたりしていないが、「刃体の長さが6センチを超える」ものについて、第22条で「携帯」を禁じられている。

 では6センチ以下なら携帯自由かというとそうでもなくて、第24条の2にあるように、例えば5.8センチの刃物であってもそれを持って目をギラギラさせて街を歩けば、ほぼ確実に警察官に疑われて呼び止められるだろうし、また軽犯罪法第1条の2には「正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他、人の生命を害し、または人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者は拘留または科料に処す」とあって、刃物の長さに関わりなく拘留の対象になる。見せびらかして人に恐怖を与えてもダメだし、だからといって隠して持っていてもダメということである。

 6センチ以上はすべてダメというわけではなく、第22条但し書きで「刃体の長さが8センチメートル以下のはさみ若しくは折りたたみ式のナイフ又はこれらの刃物以外の刃物で、 政令で定める種類又は形状のものは、この限りでない」とされているので、鋏や折り畳み式ナイフは8センチまで大丈夫。

(6)刃渡りと刃体の長さ

 「刃渡り」とは刀剣類について言われることで、刀・剣・なぎなた・あいくち・飛び出しナイフの「刃長」と、槍の「穂長」との総称である。刃長は、棟区(刀身の峰部のくぼみにかかる箇所)から切先までを直線に計った長さを言い、穂長は、けら首(塩首)から穂先までを直線に計った長さを言う。

 「刃体の長さ」は刃物について言われることで、切先(刃体の先端)と柄部における切先に最も近い点とを結ぶ直線を計った長さである。普通のナイフでは、刃の先端からヒルト(鍔)までを計ればよい。

 ところが、スケルトンナイフ、共柄の切り出しナイフ、日本カミソリ、握り鋏などのように、刃体と柄が同じ素材で繋がっていて「刃体と柄の区別が明らかでない」ものは例外で、刃物の柄を含めた全長を直線で計った長さから「8センチを差し引く」。例えば全長17センチの共柄の切り出しで、刃部だけ計れば5.9センチしかないからと思って携帯していると、17引く8で9センチの刃物を携帯していたと見なされる。

 ナイフの専門家と称する人の本でも、刃渡りと刃体の長さとの違いを間違って理解したり、共柄刃物についての例外規定を知らないで解説しているものがあるので、要注意。

(7)正当な理由

 「正当な理由」とは、「通常人の常識で理解できる正しい理由」という意味だそうで、「誰かを殺そうと思って」とか「護身用」とか「ただ何となく」とかは正当な理由とは認められない。釣やキャンプで使うためとか、ナイフを店で購入して家に持ち帰るとか、修理のため店に持っていくとかは、一応、正当な理由になる。が、むき出しで持ち歩けば怪しまれるのは当然で、人に恐怖を与えたり警察官に疑われたりしないよう梱包して持ち歩くのが無難である。

銃砲刀剣類所持等取締法(抜粋)

第二条 2 この法律において「刀剣類」とは、刃渡十五センチメートル以上の刀、剣、やり及びなぎなた並びにあいくち及び四十五度以上に自動的に開刃する装置を有する飛出しナイフ(刃渡五・五センチメートル以下の飛出しナイフで、開刃した刃体をさやと直線に固定させる装置を有せず、刃先が直線であつてみねの先端部が丸みを帯び、かつ、みねの上における切先から直線で一センチメートルの点と切先とを結ぶ線が刃先の線に対して六十度以上の角度で交わるものを除く)をいう。

第三条 何人も、次の各号のいずれかに該当する場合を除いては、銃砲又は刀剣類を所持してはならない。
 一 法令に基づき職務のため所持する場合
 二 国又は地方公共団体の職員が試験若しくは研究のため、第五条の三第一項若しくは鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律第七条ノ四第三項の講習の教材の用に供するため、若しくは第五条の四第一項の技能検定の用に供するため、又は公衆の観覧に供するため所持する場合
 二の二 前二号の所持に供するため必要な銃砲又は刀剣類の管理に係る職務を行う国又は地方公共団体の職員が当該銃砲又は刀剣類を当該職務のため所持する場合
 三 第四条又は第六条の規定による許可を受けたもの(許可を受けた後変装銃砲刀剣類[つえその他の銃砲又は刀剣類以外の物と誤認させるような方法で変装された銃砲又は刀剣類をいう以下同じ]としたものを除く)を当該許可を受けた者が所持する場合
 六 第十四条の規定による登録を受けたもの(変装銃砲刀剣類を除く)を所持する場合
 十 第十八条の二第一項の規定による承認を受けて刀剣類の製作をする者がその製作したものを製作の目的に従つて所持する場合
 十三 第十号に掲げる場合のほか、事業場の所在地を管轄する都道府県公安委員会に届け出て輸出のための刀剣類の製作を業とする者がその製作に係るものを業務のため所持する場合又は当該刀剣類について輸出の取扱いを委託された者がその委託を受けたものを輸出のため所持する場合

第四条 次の各号のいずれかに該当する者は、所持しようとする銃砲又は刀剣類ごとに、その所持について、住所地を管轄する都道府県公安委員会の許可を受けなければならない。
 六 狩猟、有害鳥獣駆除、と殺、漁業又は建設業の用途に供するため必要な刀剣類を所持しようとする者
 七 祭礼等の年中行事に用いる刀剣類その他の刀剣類で所持することが一般の風俗慣習上やむを得ないと認められるものを所持しようとする者
 八 演劇、舞踊その他の芸能の公演で銃砲又は刀剣類を所持することがやむを得ないと認められるものの用途に供するため、銃砲又は刀剣類を所持しようとする者
 九 博覧会その他これに類する催しにおいて展示の用途に供するため、銃砲又は刀剣類を所持しようとする者
 十 博物館その他これに類する施設において展示物として公衆の観覧に供するため、銃砲又は刀剣類を所持しようとする者

第十四条 文化庁長官は、美術品若しくは骨とう品として価値のある火なわ式銃砲等の古式銃砲又は美術品として価値のある刀剣類の登録をするものとする。

第十八条の二 美術品として価値のある刀剣類を製作しようとする者は、製作しようとする刀剣類ごとに、文化庁長官の承認を受けなければならない。

第二十二条 何人も、業務その他正当な理由による場合を除いては、総理府令で定めるところにより計つた刃体の長さが六センチメートルをこえる刃物を携帯してはならない。ただし、総理府令で定めるところにより計つた刃体の長さが八センチメートル以下のはさみ若しくは折りたたみ式のナイフ又はこれらの刃物以外の刃物で、 政令で定める種類又は形状のものについては、この限りでない。

第二十二条の四 何人も、業務その他正当な理由による場合を除いては、模造刀剣類(金属で作られ、かつ、刀剣類に著しく類似する形態を有する物で総理府令で定めるものをいう)を携帯してはならない。

第二十四条の二 警察官は、銃砲刀剣類等を携帯し、又は運搬していると疑うに足りる相当な理由のある者が、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して他人の生命又は身体に危害を及ぼすおそれがあると認められる場合においては、銃砲刀剣類等であると疑われる物を提示させ、又はそれが隠されていると疑われる物を開 示させて調べることができる。
2 警察官は、銃砲刀剣類等を携帯し、又は運搬している者が、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して他人の生命又は身体に危害を及ぼすおそれがあると認められる場合において、その危害を防止するため必要があるときは、これを提出させて一時保管することができる。

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